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弊社スタッフ・インターン生によるワーク・ライフバランスに関する論文

わがまちの自治の出来事 大藪まり子

解説・論点

先日、私の住むまち、東京都新宿区では新年度から、「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」に積極的に取り組む企業を独自に認定する制度をつくる方針を決定したことが発表されたことに関する記事について論じる。

新宿区では、認定された中小企業に対しては、民間の金融機関から融資を受ける際、利子の一部を負担することで支援する。認定制度と融資制度を組み合わせて企業を支援するのは23区初の試みであり、「働き方の見直しにつながるのでは」としている。新宿区が、「ワーク・ライフ・バランス」を推進するうえで重視するのは、子育て、介護、地域支援、男女雇用機会均等の4分野である。このため、認定の要件として

〈1〉 育児休業者の代替要員を確保して、育児休業を取得しやすい環境を整備している
〈2〉勤務時間を短縮するなどして従業員が介護のための時間を取りやすくする
〈3〉地域活動に参加しやすいようにボランティア休暇を導入している
〈4〉男女とも働きやすい職場にするための各種具体策を実施

――などを検討している。全分野の基準を満たしていなくても、1分野で基準を満たしていればよく、企業からの申請を受けて審査し、要件を満たした場合は「ワーク・ライフ・バランス推進企業」として認定する。認定企業には認定証を発行するほか、区のホームページと広報紙で紹介する予定である。

認定企業のうち、従業員300人以下の中小企業が金融機関から融資を受ける際、融資額500万円を上限に、その利子の3分の2を区が補助する。受けた融資の使途は制限しない。新宿区はすでに、創業や環境保全に力を入れている中小企業に対し、融資を受ける際の利子の一部を負担する制度を導入していますが、子育てや介護の負担軽減が緊急課題になっているとして、ワーク・ライフ・バランスに取り組む企業も対象に加えることにした。企業向けの啓発セミナーなどを含め、新年度予算案に計約580万円を計上した。

さらに、新宿区は、区内に本社を置く企業が従業員の育児や介護、地域活動などをしやすいようにどれだけ配慮しているのかのチェックシートを作成中である。その取り組み状況によりワーク・ライフ・バランス企業を認定する。質問は「育児のため急な休みにも対応できる業務体制づくりを進める」「介護休業者の代替要員を確保する」など10〜20項目を予定している。女性管理職を登用しているかなど、男女がともに働きやすい職場にしているかも点検する。

区は企業からチェック・シートを提出してもらい、さらに企業の担当者と面談して審査する。実際に職場を訪問することも検討しており、初年度は10社程度を認定したいという考えである。

所見

地方自治とは、地方における政治と行政を、地域住民の意思に基づいて、国から独立した地方公共団体がその権限と責任において自主的に処理することをいう。国とは独立の法人格をもった地方公共団体を設けるという団体自治とその事務の処理を住民の意思に基づいて行う住民自治の2つの要素の結合からなるが、今回は住民自治、中でもインセンティブに関して、新宿区のワーク・ライフ・バランス企業認定制度を取り上げて考察してみたい。

私は「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」に興味をもち、これまで積極的に活動してきた。そして、先日、私が住む新宿区で、23区初の試みとして「ワーク・ライフ・バランス」企業の認定の制度が設けられたことを知り、自分の興味の分野を自分の住むまちが自治で取り組んでいることにただならぬ偶然性を感じたので、今回のレポートのテーマの記事に選んだ。新宿区では、ワーク・ライフ・バランスの推進と男女共同参画社会の実現をめざし、さまざまな取組みを行っている。これは、今日的な地方自治の重要性として地域の特色を活かした施策の実施(住民ニーズに的確に対応した行政サービスの提供)にあたる。急速に進む少子化への対応として、働き方の見直しも社会の大きな課題となっている。次世代育成支援対策推進法では、一定の事業者に対し、次世代育成支援のための行動計画策定が義務つけられている。これらを推進するには、区の取組みだけではなく、区、区民、事業者、地域団体がそれぞれの責務を果たしながら、協働で取組むことが大切である。ワーク・ライフ・バランスを推進させるためには、ワーク・ライフ・バランスへの取り組みに優秀な企業を一定の品質基準から評価して「賞」を与える仕組みや、発注条件に時短など一定のガイドライン遵守を入れる仕組みを設けるなどが考案されている。新宿区が区内の企業のワーク・ライフ・バランスを促進させようとする姿勢は評価できる。今回制定された制度について検討してみたい。

まず、低利の融資制度についてである。低利融資を「アメ」として持ち出すことはこれまでにも試みられてきたが、ワーク・ライフ・バランスの本来の意義を理解しない企業が、融資を目当てにして目先の制度だけを導入することは十分に考えられる。過去に障害者の雇用についても金銭的メリットが提供された結果、障害者雇用の意義を理解しない一部の企業が、障害者を利用したケースがあったことから容易に想像することができる。しかし、社会的に意味のあることを企業が行う場合、まず、社会から評価を受けることが企業の利益となる場合と、企業に義務づける場合の2通りが考えられる。今回は、企業がワーク・ライフ・バランスを取り入れることが必ずしも社会からの評価に直結するほど、世の中や市場でワーク・ライフバランスの概念が認識されていないので前者のケースは難しい。ワーク・ライフ・バランスの重要性が叫び始められたこの時期にワーク・ライフ・バランスの普及のためにインセンティブを与えることは非常に意義があることであり、税金の使い道としては妥当だと考える。

次に、認定の目標数値を設定することについてである。認定に値する企業があれば認定すれば良いだけのような気がする。しかし、行政としても限られた税金を使って、期待された効果をあげることが住民サイドからの要請である。単にインセンティブを与えれば責めを免れるわけではない。こうして、政策実現に関する目標数値を設定することは、目標評価を意識した内向きのきらいもあるが、行政としての責任の範囲を決めたことであり、意義がある。

制度を設けることにより社会を誘導し、未来志向への企業にインセンティブ(金銭的支援・社会的な評価)を与えるのは行政をつかさどる公的機関が行う意義のある試みである。

新宿区では「ワーク・ライフ・バランスが進んでいる企業を評価するだけでなく、これからワーク・ライフ・バランスを進めていきたい企業にとってのサポートも盛り込みたい。」と考え、認定にいたらなかった企業を継続してフォローしていく仕組みも用意している。このような認定制度を使って、自社の評価を社外及び社内に向けて高めていくことは企業にとって非常に重要な経営戦略となるはずである。

新宿区のようにIT企業など多くの企業が密集する地域の自治体が先陣をきり、独自の支援を行なっていくことは、今後の行政にとっても良いモデルとなるのではないだろうか。

私は自身の住むまちが行った全国初の試みであること、そして関心のあるトピックであったことも手伝って、新宿区のワーク・ライフ・バランス企業認定制度を選んだ。しかし、調べてみると、行政という大きなテーマでも、身近な事柄から考察することが可能なのだと分かり、自分にとって行政が少し身近になったような気がした。このように貴重な機会を与えていただいたことにこの場を借りて感謝の気持ちを述べたい。

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働く女性の子育て支援〜意識改革による子どもを産み育てたくなる社会の実現

株式会社 ワーク・ライフバランス インターン(第一期生) 堀江敦子 卒業研究2006年度

はじめに 少子化の現状と、働く女性の現状
第1章 なぜ今、働く女性の育児支援なのか
第1節 女性が働くことの重要性
第1項 女性にとっての働く意義
第2項 社会や企業に女性労働が求められる時代
第3項 家庭でも女性の労働が求められる
第2節 少子化はなぜ改善しないのか
第1項 少子化の原因の再考
第2項 性別役割分業の歴史
第3項 三歳児神話の真偽について
第3節 男性の育児参画の重要性
第1項 結婚満足度の向上の重要性
第2項 企業や社会の理解へのつながり
第2章 変わりゆく子育て支援対策
第1節 少子化対策の流れ
第1項 エンゼルプランから、次世代育成法へ
第2項 次世代育成支援対策推進法以降の動き
第3項 子ども・子育て応援プラン
第4項 今後の課題
第2節 子育て支援と労働支援
第1項 働く女性の労働状況
第2項 オランダから学ぶワークシェアリング
第3節 企業の子育て支援対策
第1項 企業の子育て支援の現状
第2項 「ファミリー・フレンドリー企業」の取り組み
第3項 企業Aの子育て支援の取り組み
第3章 世界の子育て支援
第1節 日本の子育て支援の実態
第1項 制度
第2項 保育サービス
第2節 スウェーデンの子育て支援
第1項 少子化の現状
第2項 制度
第3項 その他の特徴
第3節 フランスの子育て支援
第1項 少子化の現状
第2項 制度
第3項 その他の特徴
考察
第4章 意識の変化が楽しい子育てのカギ
第1節 女性自身の意識の改革
第1項 ガラスの天井を取り除く
第2項 妊娠中・出産直前の子育ての知識
第2節 男性の子育て支援
第1項 男性の意識の変化
第2項 男性に対する子育て講座
第3節 幼少期から家庭を身近に
第1項 幼少期からの「家庭」の教育
第2項 中高生のベビーシッター
おわりに
参考文献

第1章 なぜ今、働く女性の育児支援なのか

第1節 女性が働くことの重要性

第1項 女性にとっての働く意義

この節では、女性が働くことの重要性について論じていく。

まずなぜ人間は働くのかということについて述べていく。マズロー やシャインの説を用いると、人間は5段階の「生理的要求」「安全・安定要求」「愛情・所属要求」「尊重要求」「自己実現要求」という要求があり、働くことはこの「尊重要求」と「自己実現要求」に動機付けられるという。つまり、人間は社会的・経済的な自立や、自己実現の達成のために働いているということである。

この人間の働く理由については、本来男女ともに変わらないはずである。しかしながら、現在の日本の、「男性は外で働き、女性は中で働く」といった概念の中で、結婚・出産を期に男性と女性の働く意義は異なってくる。男性の場合、働く第1の理由は、「家計を支えるため」という経済的な理由であり、女性の働く理由は、経済的な事由の次に「社会に出ていたいから」という理由が出てくる。(図1参照)

これは女性に特有の要求ではなく、現在この要求が満たされず、家の中で孤独になることが多いことから、強く出てくるものなのである。またそれとは逆に、現在の男性の場合は、働くことが自分の要求を満たす「手段」であるにも関わらず、「目的」となってしまい、自分の要求を満たすどころか、仕事に追われ、本来の目的を忘れている人も多い。

つまり女性が働くということは、男性と同じように自分の要求を満たす権利を行使するという意味と共に、仕事や家事・育児の時間を分担していくことで、お互いのワークとライフのバランスを保ち、人間本来の要求を満たしていくという意味があるのだ。
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第2項 社会や企業に女性労働が求められる時代

そして「2007年問題」や少子化の影響で、労働力人口が急激に減少している現在、女性が働き手として大きく期待されているのである。

2007年問題とは、定年を60歳とすれば、1947年(昭和22年)生まれを中心とした団塊の世代の退職者が最も多く発生するのが2007年というもので、それに伴って労働力の質と量の低下が問題となっているのである。労働力の量と質の低下を補う方策としては、1.出生率の引き上げ 2.外国人労働者の受け入れ拡大 3.女性労働力の活用 である。この1と3を強化していくために、両立支援が大きく叫ばれてきている。

また女性労働者が求められているのは、労働力人口を増やすだけが目的ではない。現在、女性を活用している企業の経営業績が高く(図2)、株価が高いという調査結果が出ており、労働力の質の上でも大きく注目されているのである。1999年、ゴールドマンサックス証券のキャシー・松井が、分析レポートにおいて「ウーマノミクス(Women-Economics)」という造語を提唱した。「ウーマノミクス」とは、「ウーマン(Women)」と「エコノミクス(Economics)」を合わせたものである。レポートの概要としては、「株価の高い企業の共通項目は『女性』であり、女性需要、女性労働などの女性経済がキーワードとなっている。また女性の労働力の上昇は、少子高齢化の圧力を軽減し、日本経済の長期滞在成長力を押し上げる効果がある。ウーマノミクスは長期的な投資テーマになる可能性が高い」ということである。

実際、消費全体の8割に、女性の意見が反映されているといわれている。何か商品を購入する際、例えば女性が自分の物を購入するときや、家族や彼氏の物を購入するときであっても、最終的に購入を決定しているのはほとんどの場合女性であるのだ。つまり、女性の活躍が企業業績に直結するのではなく、女性ならではの視点で消費動向を把握することが、業績向上に繋がるのである。
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また、CSR(Corporate Social Responsibility)という側面でも、女性労働は重要な役割を担っている。厚生労働省は、2004年CRS(企業の社会的責任)の評価の指針作りに乗り出したが、その中には、「女性の活用」が含まれている。これからの優良企業とは、複数のステークホールダーとコミュニケーションを取り、満足させていく必要があるとしており、地域活動への参加や、安全衛生の確保、障害者の活用、従業員の教育訓練などを推進している。このようなことを行い、企業が社会的責任を果たしていくためには、女性の視点の活用が大いに効果的であるとしているのである。今後は利益を上げるだけでなく、「どのように」経営されているのかが企業の社会的責任として評価対象になる。そのため、付加価値の部分を生み出すことが女性に期待されているのである。

このように今後は、日本社会全体においても、個々の企業においても、女性が働き手として求められていると言える。今後女性を働き手として受け入れていくために、女性が働きやすい体制を作っていくことが急務であるといえる。

第3項 家庭でも女性の労働が求められる

実は、家庭の中でも女性が外へ出て働くことが求められているという興味深い事実がある。図3 を見てもらうと分かるように、女性が職業を持つことに対する男性の意識は、肯定的な方向に変化してきている。「子どもができたら職業をやめ、大きくなったら再び職業を持つほうが良い」という意識は、昭和59年から高い水準であるが、「子どもができても、ずっと職業を続ける」のが良いとする意識は、ここ数年で急激に増加している。現在のこの2つの意識を合計すると70%近くになり、半数以上の男性が女性の職業について肯定的な考えを持っているといえる。
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これは、女性の就業率が増加し、女性が働くことが当たり前となってきたということが大きな理由という訳ではない。賃金の伸び悩みやリストラの増加、成果主義の導入などの、日本の厳しい経済情勢が大きく影響しているといえる。現在の日本では、給料が年功序列で右肩上がりに増加していた高度成長期とは異なる経済状態のため、男性1人だけで家計を支えていくことが困難になってきたのである。生計を維持するために、リスクヘッジとして女性の労働が求められているということなのだ。

しかしながら依然として多くの家庭では、家事や育児は主に女性が行なっており、「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という考え方が主流となっている。この状態だと、仕事と家庭を一挙に女性が担うこととなり、大きな負担となる。女性労働の肯定化に伴い、家事や育児の男女両立化も推し進めていくことが求められる。このことに関しては、また2節にて述べていく。

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第2節 少子化はなぜ改善しないのか

第1項 少子化の原因の再考

日本は現在、合計特殊出生率が1.25と、史上最低の数値となっている。「はじめに」で記した通り、人口を安定させる人口置換水準の2.08を下回り始めたのは、1970年代半ばである。以後、すでに30年以上に渡り、合計特殊出生率は下がり続けている。

ではなぜ30年の間、少子化はなぜ改善しなかったのか。それは、少子化の原因に対しての根本的な解決ができていないからではないだろうか。少子化の原因と声高に言われている「女性の社会進出」、「未婚化」、「晩婚化」に加え「結婚後、理想の子ども数を産まない理由」を見直し、この原因の共通点を明らかにしていく。

ではまず、「晩婚・晩産化」について、みてみよう。図4を見てみると分かるように日本の平均初婚年齢は、1975年から2003年の30年間で上昇していることが分かる。2003年では夫が29.4歳、妻が27.6歳となっており、1975年の夫は27.0歳、妻が24.7歳である。つまり、約30年間のうちに夫は2.4歳、妻は2.9歳、初婚年齢が高まっていることが分かる。

またこの晩婚化の傾向は、最近になり速度が速まっている。妻の平均初婚年齢で比べてみると、25.0歳から26.0歳と、1.0歳上昇するのに1977年から1992年と15年かかった。しかし、27.0歳になるまでには1992年から2000年の8年間しかかかっていないということで、晩婚化の速度が速くなっていると言われているのである。

このように晩婚化が進んでいるため、同時に晩産化も進んでいるのである。第1子の出生に関して、母の年齢階級別に構成割合を見ると、1975年には第1子を生んだ母親の約9割が20歳代であったが、2003年では約6割が20歳代、約3割が30歳代となっている。第1子を30歳代に出産する人の割合が増えてきたため、第2子、第3子を出産する時には高齢になる。そのことで出産を断念してしまうため、出生率が下がったということである。実際「理想の子ども数を持たない理由」の2番目に「高齢で生むのは嫌だから」という回答が多かった。

次に、「未婚率の上昇」についてみていく。図5を見ても分かるように、1980年代以降、25〜34歳の未婚率が上昇しており、2000年の男性の場合、 25歳〜29歳では69.3%、30〜34歳では42.9%。女性の場合は、25〜29歳では54.0%、30〜34歳では26.6%となっている。日本では、結婚によって子どもが生まれることが大半なので、未婚率の上昇が少子化につながっているのである。25歳〜34歳の未婚の男女の、結婚をしない理由として最も多く挙げられたのが、「適当な相手にめぐり会わない」で、男女ともに約50%を占めている。次いで「自由や気楽さを失いたくない」「趣味や娯楽を楽しみたい」「仕事(学業)にうちこみたい」となっている。また、独身女性が重視する結婚相手の条件として、「家事・育児に対する能力や姿勢」を挙げている人の割合は、ほぼ60%に達している。(図6)以前よりも女性の労働状況が良くなってきて、女性が自分で生計を立てていることが可能となってきた。そのことで、以前の様に結婚は「必須」なものではなく、「選択」するものとなった。しかし依然と結婚後の家事や育児の負担は女性に偏ることが多いため、結婚後も仕事を行うためには夫のサポートが必要だと考えている女性が多いのである。つまり独身女性の多くが、家事・育児と仕事の両立の抱えているということが言える。

また結婚後、理想の子ども数を生まない理由として、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」という経済的な問題に次いで、「高齢で生むのがいやだから」「育これ以上育児の心理的・肉体的負担に耐えられないから」が挙げられた。図7を見ると、子育ての負担感を感じているのは共働きの女性よりも、いわゆる専業主婦の方が多いことが分かる。これは核家族世帯が多い現在、地域からだけではなく、夫や家族からさえも支援が受けられないまま、いわゆる専業主婦は24時間乳幼児と向き合わなければいけなくなる。そのことで、心身の両面で負担が増加しているのである。

また夫のみ就労している家庭では、妻は1日中家におり、夫は1日のほとんどが仕事という関係になっている。そのため、夫婦間の会話時間が少なくなる上に、共通の話題もなくなる。このことで結婚満足度(第3節にて詳しく説明)が低下し、第2子をあきらめる傾向がある。

このように、少子化の原因を統計調査に基づいて再考したことで、少子化の原因は、様々なものが重なり合って起こったものであることが分かった。しかし今回調べていく中で、これらの原因には共通点があるということに気づいた。それは、「性別役割分業」の概念である。この「性別役割分業」の概念が、子育ての負担感を増大させ、晩婚化や未婚率の上昇につながっているということである。

次からは、この性別役割分業はどのように作られていったのかという歴史と、固定観念について述べていく。

第2項 性別役割分業の歴史

前述したように、子育てに対する不安感や負担感が多いことから、理想の子ども数を生まず、また子育てと仕事の両立への不安から結婚を遅らせているという実態がある。これは性別役割分業によって、「男は外で働く」「女は内で働く」ということが固定され、女性が育児を1人で行わなければならないという風潮が、今なお存在するからである。そのため、結婚・特に出産を機に職業を中断して「専業主婦」となる女性が、未だに役80%を占めている。では、このような「性別役割分業」はいつから始まり、どのように形成されたのだろうか。

よく、「『男は外、女は中』という生き方は、長い日本の伝統的文化の上に築かれたものであるため、そう簡単には変えることはできない」という主張を耳にする。しかし、この「男は外、女は中」という概念ができ、いわゆる専業主婦が誕生したのは、高度経済成長期の時であり、その歴史は50年にも満たないのである。

それ以前の日本家庭では、明治以後も農業が中心に行われ、血縁や村の共同体の上に築かれてきたのである。これらの社会で主婦たちは皆、家業の重要な働き手だったため、「母親」であることよりも「働き手」であることが優先された。その「母親」の役割を肩代わりしていたのが姑や地域の子育てネットワークであった。

当時は、子育ては集団で行われることが多く、農家の日当たりの良い縁側に作られた施設保育所に、生まれの月近い乳幼児たちが預けられた。子どもたちの世話は、子育て経験の豊富なおばさんたちが引き受け、母親は家業の合間に次々と乳を与えに帰り、全ての子どもに乳を与えた。全ての母親の乳で育てられた子どもたちは、乳兄弟と呼ばれ、生涯の友となっていったという。このように、この当時の育児は共同の育児だったのである。

この時代の女性は、法律や制度上では家族制度によって、著しい男女差別を受けていたが、その反面、家業の担い手として現実の生活の場で握っていた様々な裁量権は、現在よりも大きいと言える。

このように、明治・大正・戦前の昭和を通じて、「夫婦共働き」が日本において普通の生活形態であった。夫の経済力で、家事・育児も雇い人に任せているような生活をしている女性は、ほんの一握りの上流階級の人々に過ぎなかった。

しかし高度経済成長期によって、産業の形態が急激に変化し、約70%の家庭がサラリーマン世帯となった。農業を辞めて上京してきた都会では、男性が大黒柱となって、一家を養えるだけの給料がもらえる仕事が沢山あったため、「内助の功」で夫を支える専業主婦の存在が不可欠となった。男性は、8時間労働プラス残業と、仕事優先で1日中家庭の外で生活をすることとなり、女性は夫が仕事に専念できるように、身の回りの世話から、子育て・介護まで家事全般を引き受けた。

企業は男性に仕事優先で生活させることの代りとして、家族の生活を保障する夫の定年までの雇用、年齢と共に上がる賃金、夫1人が働けば家族を養える給与などを整えた。また政府も、税制を専業主婦のいる世帯が有利なように設計していった。それが、1961年に設けられた配偶者控除と、1986年に設けられた配偶者特別控除、妻の年金免除といった専業主婦優遇政策である。これには、妻に子育てや介護を行わせることによって、福祉予算を削減する狙いもあったのである。

この2つの控除は、専業主婦を養う夫の所得税の課税対象額を減らし、所得税を軽くするものである。両方の控除の合計は、妻の収入によって、年間で最高76 万円(配偶者の給与収入が70万円未満)から3万円(配偶者の収入が141万円未満)まで段階的に変わるようになっている。これによって、納税者である夫の所得税の課税対象額が減ると、税率が低くなる場合もある上に、住民税、健康保険料なども軽減される。夫の収入が大きければ大きいほど、配偶者控除・配偶者特別控除の恩恵は大きくなるのである。

しかし、配偶者の収入が配偶者特別控除の限度額未満なら会社から支給される「配偶者手当」を受け取るためや、国民年金・健康保険の被扶養者になるめには、妻の収入は103万円に抑えなければならない。そのため、専業主婦がパートタイム労働者などで働き始めると多くの控除や免除がなくなり、逆に負担が増えてしまう現象が起きるのである。このようなことからも、女性の労働が抑えられていったのである。

このように「男は外、女は中」という概念は、高度経済成長期による産業の形態の変化、企業や国の優遇政策によって作られてきたものなのである。

第3項 3歳児神話の真偽について

「男は外、女は中」といった概念に加えて、「育児は母親がするべきだ」「3歳までは母親の手で育てなければ、子どもに悪影響がある」といった固定観念が存在する。そのことを「3歳児神話」という。元々「3歳児神話」は、「子どもが0歳なら親も親として0歳。子どもに物心つくまで、親子で一緒にゆっくり成長できたらいいね」という周囲の愛情あふれる気遣いが起点であった。しかし、非行など、子どもが問題行動を起こす度に、その原因を幼少期の母親の就労に結びつけるようになり、上記のような「3歳まで母親の手で育てなければ、子どもに悪影響がある」というような概念が生まれていったのである。実際、「子どもが3歳くらいまでの間は、保育所などを利用せずに母親が自分の手で育てるべきだという意見に、あなたはどう思いますか」という質問に対して、「賛成」(27.3%)と「どちらかといえば賛成」(40.5%)を合わせた『賛成』が67.8%を占め、「どちらかといえば反対」(19.3%)と「反対」(8.3%)を合わせた『反対』(27.5%)を大きく上回っている。この概念に基づき、出産を機に職業を中断して「専業主婦」となる女性が、約80%もいます。また国勢調査から、子どもの年齢が6歳以上になると再就職する割合が増えるということも分かっている。この、いわゆる「3歳児神話」が、働く女性が出産を理由に辞める原因ともなっているのである。

しかしながら前述したように、高度経済成長期以前の日本では、母親が全て育児を行ってきた訳ではない。そういった歴史も踏まえて、この3歳児神話は真実であるのかどうか、考察していく。

ではまず、「3歳児神話」の構成はどのようになっているか見てみる。内容を詳細に分析してみると、3つの要素で構成されていることが分かる。
[1] 子どもの成長にとって幼少期が重要である。
[2] この大切な時期は、母親が養育に専念するべきである。なぜなら母の愛情は、子どもにとって最善であり、女性は生来的に育児の適性を備えているからである。
[3] 母親が就労などの理由で育児に専念しないと、将来の子どもの発達に悪い影響を残す。
(大日向.2001)
といった内容である。

では、このような「3歳児神話」が生まれたのはいつからであるのか。それは、「性別役割分業」の概念が生まれた経緯とほぼ同じであり、高度経済成長期以降のことである。しかし、この考え方が根強く人々に浸透していった背景としては、心理学や医学などの研究が後押しをしていたことが大きく、高度経済成長期にはホスピタリズムの研究が、乳幼児期の母子関係協調路線に決定的な影響を与えた。

3歳児神話の調査
3歳児神話でよく引用されるのがボウルビィの「母性的養育の剥奪(Deprivation of Maternal Care)」の調査であり、スピッツの「ホスピタリズム(Hospitalism)」や、ロレンツの「刷り込み(Imprinting)」の概念も流用される。

ホスピタリズムとは、日本語で「施設病」のことであり、乳幼児や孤児院などの乳児に見られた発達の遅れや以上を指すものであった。20世紀初頭に発見され、小児科医らの手によって対策が試みられた。そこでWHOは、ホスピタリズムについての研究をイギリスの精神医学者ボウルビィに委託した。そしてこの時の報告書が、ボウルビィの報告書(1951)である。ボウルビィは、戦中〜戦後に両親と離れ離れになった各国の子どもたちについての調査を開始した。この調査で施設収容がなくてもホスピタリズムは生じることを確認した彼は、その原因は施設ではなく、母性的配慮の喪失経験にあると考え、「母性的養育の剥奪」(maternal deprivationボールビーBowlby,1951)という考えを提唱したのである。さらに、「その母性剥奪が子どもの生涯に渡って悪い影響を及ぼす」と報告書に書いている。

この考えが日本社会に大きな影響を与え、乳幼児期の母子関係の協調が声高に言われた。その中で、「保育園に預けると、子どもが自閉症になる」等と誤った説が言われたこともあったのである。

しかしながらボウルビィは、「母子の結びつきの重要性を指摘しながらも、同時に乳幼児をときおり母親以外の誰かに世話させることに慣れさせることは、優れた保育方法である」と言及しており、1956年の自身の論文にて、「将来の全人生に影響を与える」という主張が誇張であったことを認め、「母性的養育の剥奪が全人生に重大な影響を与えるとは言えない」とも記していた。しかし、このことが全く日本で認知されることはなく、母親不在が乳幼児の発達を阻害するという面だけが強調されたのである。

また最近でも、脳科学の研究で3歳児神話を根拠づけるとされる報告がされている。子どもたちの発達を脳科学の観点から研究してきた文部科学省の「情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討会」にて、「適切な情動の発達については、3歳くらいまでに母親とはじめとした家族からの愛情を受け、安定した情緒を育て、その上に発展させていくことが望ましいと思われる。」と報告された。ここでは、乳幼児期の母性の役割とその重要性を強調している。この他にも、「人間の8歳という時期は、脳の9割が成長する時期であり、人としての概要ができあがる頃とも言える。」という考え方から、8歳ころまでは、子どもがぶつかってきて、きちんと受け止めて、跳ね返してあげられる母親、家族の存在が重要。(いずみ幼稚園)という意見もある。

また逆に、3歳児神話を否定する主張も多い。平成18年の「厚生白書」では、「3歳児神話には少なくても合理的な根拠は認められない」と記述されている。このことに関しては、「3歳児神話を否定する客観的データがある」という意味ではなく、「自立した個人の生き方を尊重し、お互いを支える家族を作ろう」という政治的な主張を論拠としているということで、疑問視もされている。しかし、「妊娠・出産・哺乳以外の育児の大半は、父親(男性)にも遂行可能」、「子育てについて、専業主婦がより高い不安傾向を示している。子育てについて周囲の支援も受けられず、孤独感の中で、子ども中心の生活を強いられて、ストレスを溜めている母親と接することは、子どもの心身の健全発達に好ましくない。」(要約)などの主張は、常識的に納得できる内容である。

これらの主張の中で、最もまとまっているものが、大日向のものであると考える。大日向は、「『3歳児神話』について考える」(平成14年.研究紀要 第32号)の中で、3歳児神話の3つの構成要素を次のように吟味している。

第1点の幼少期の重要性は、他の時期に比べても大きく、1概に否定されるべきものではないとしている。幼少期は愛されることで他者や自分に対して信頼を培う時期であるため、他のどの時期にも増して他者から愛され保護されなくてはならないのである。

しかし、第2点の、この時期に愛情を注ぐ人は母親でなければならないかについては疑問の余地が大きいとしている。母親もわが子に愛情を注げるよう心を尽くす必要があるのは無論だが、母親であれば誰もが、いかなる環境下に置かれても適切な養育者になれるとは限らない。幼少期に不可欠な愛の内容を発達心理学的にいうと、応答性のある適切な量の情報であるとされている。日常的な養育行動の多くは情報の交流から成り立っている。優しくあやす声は耳から入る聴覚情報であり、笑顔は目から入る視覚情報、抱っこは皮膚から入る触覚情報、授乳や食事は味覚情報としてキャッチされている。このように幼少期に必要な愛情の内容を明らかにしてみれば、母親の愛情に限定するような3歳児神話の第2点の妥当性は問題が大きいのである。

第3点については、アメリカの調査が反対の論拠を示している。生後から10年近く縦断的に調査した結果、子どもの発達は母親が働いている、いないという形だけでは差がみられないという。母親が働いていても、・働く意義を母親自身が自覚し ・家族の理解と協力がある ・日中の保育環境が優れている ・職場が家庭と仕事の両立支援を行っている等の条件が整っている場合には、子どもの発達は知的にも社会性や情緒面でも優れているという(Gottfried,A.E., Gottfried,A.W. 1988)。しかし、保育の質や保育時間の長さによって子どもの発達や母子関係に全く影響がないわけではない。乳幼児期の子どもにとって大切なのは保育の質や時間を含めて親がどのような保育を選ぶかであり、その点も含めて親や家族の特徴(家族関係、経済的特徴、母親の性格や仕事に対する態度・心理的充足度・子どもの心を読みとる力)が問われるという(サラ・フリードマン 2000)。いずれの研究も母親の就労は単に女性の問題ではなく、家族や社会全体が取り組むべき課題であることを示唆している。」

以上の様々な意見を踏まえて、やはり「3歳児神話は『神話』にしか過ぎない」と考える。というのも、「3歳児神話」を支持する論拠を見ても、「育児が母親だけに限られる」論拠が見つからないからである。どの論拠も、「子どもに愛情を注ぐ家庭や、家族に代わる存在の重要性の証明」にはなっても、「母親だけが育児に専念する重要性の証明」にはなっていないのである。確かに、様々な研究結果が示しているように、乳幼児期の重要性や、母親の愛情の重要性については、議論の余地はない。しかしながら、「女性は生来的に育児の適性を備えている」ということは必ずしもなく、父親を始めとする母親以外の人々も、十分に子どもを愛することが可能であるのだ。アメリカの調査で言われている様な「母親が働いていても、働く意義を母親自身が自覚している・家族の理解と協力がある・日中の保育環境が優れている・職場が家庭と仕事の両立支援を行っている等の条件が整っている場合には、子どもの発達は知的にも情緒面でも優れている」ということは、自身の実体験からも感じたことがある。

私は大学2年の頃から2年間ほど、ベビーシッターのアルバイトを行い、多くの共働き世帯を見、その子どもたちと接してきた。そこで接する子どもたちは、母親からも父親からもほぼ同じ時間だけ養育され、愛情を注がれており、心身ともに健全であった。また共働きにより、ベビーシッターサービスを利用してから、子どもの言語の発達が早くなったという意見も伺ったことが何度もある。母親が育児に専念し、母親と子どもの2人きりになると、子どもは母親の「赤ちゃん言葉」しか聞かないこととなる。しかし他の大人が入っていく事で、子どもが大人の会話を聞くようになる。このことで、言語の発達が早くなるとも言われている。

女性が働くことが当たり前の時代となり、実際に数も増加しているにも拘らず、その時代に即さない「3歳児神話」の意識だけが残っている状態となっているように思われる。母親の愛情の重要性と共に、父親や他の大人たちの重要性も大事であるということを踏まえて、男女共に子育てに携われる体制を作ることが求められているのである。

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第3節 男性の育児参画の重要性

第1項 結婚満足度の向上の重要性

本節では、前節で述べたように「男女共に子育てに携われる体制を作っていく重要性」を示すために、男性の育児参画の重要性について論じていく。

まず、男性が育児にどれだけ参加しているかということである。「家庭教育に関する国際比較調査」によると、日本の父親が平日に子どもと過ごす時間は3.1時間であり、海外5カ国と比べると、韓国に次いでワースト2位であった。約10年前の同様の調査と比べると、その時間は0.2時間減少していた。また、子どもと一緒に過ごす時間が低下しているということは、夫婦で過ごす時間も少ないということであり、このことが結婚満足度の低下につながり、第2子、第3子を諦める要因になっているのである。財団法人家計経済研究所の「消費生活に関するパネル調査」は、妻の結婚満足度や家庭の状況の変化を何年にも渡って測定している。そのデータによると、夫の収入が仮に月10万円減少しても、夫婦の会話が1日平均 16分増えることや、夫が育児分担割合を3%上げることで満足度を補えるという。経済的な負担よりも、心の支えとしての信頼度が夫婦関係の満足度を3倍も高めているのである。つまり、結婚した後に第2子、第3子を考えるために不可欠なのが、第1子が生まれたときの男性の育児参画なのである。

第2項 企業や社会の理解に向けて

また男性の育児参画は、企業や社会の理解にも繋がってくる。その事例として、男性の育児休業取得率の多いスウェーデンでは、育児休業の利用に対して、スウェーデン社会では否定的な評価がほとんど見られないのである。これは、育児休業の利用が容易にできる体制や環境が整っていることで、男性も育児休業を取得することができ、育児の楽しさや辛さを実感したことや、育児休業が自分にも享受される権利であることが大きな理由であると考える。また、スウェーデンの男性の家事・育児の時間は1日3.4時間(女性は4.7時間)であり、日本の男性の36分の約5倍となっている。育児を経験することで、家事・育児の両立をする意識が芽生えるのである。

現在、日本の男性の育児休暇の取得率は、女性の72.3%と比べ、0.50%と極めて少ない。男性が育児休業を取得しない理由としては、「仕事の量や責任が大きいから」が66.7%。「収入が減少し、家計に影響するから」が 57.9%、「職場で理解が得られないから」が47.6%と、職場での事由が挙げられることが多く、日本ではまだまだ、職場での雰囲気が育児休業を取りにくいものであることが覗える。調査でも、育児休業取得に対する職場の雰囲気として、「どちらかといえば取得しにくい」と「非常に取得しにくい」を合わせた『取得しにくい』が76.3%と、「非常に取得しやすい」と「どちらかといえば取得しやすい」を合わせた『取得しやすい』の数値(6.6%)を大幅に上回っている。このような育児休業を取りにくい職場環境が、男性の育児時間を減らし、更なる性別役割分業を助長しているのであるといえる。

しかしながら、日本でも男性の育児休業を取りやすくする試みを行なっているところもある。ある会社では、2週間単位で最高10週間まで取得可能とし、無給でも短期間にすることで、休暇を取りやすくした。すると、今まで1人も育児休業の取得者はいなかったのだが、制度開始後の1年間で8人の男性職員が取得をした。1ヶ月という期間は、経済的な面でもキャリアの面でも不安が少ないため、取得が容易にできたようだ。育児休業を取得した社員は、「育児の大変さを知ることで、育児休業の意義を理解できた」と述べており、復帰後も保育園の送り迎えなどをするようになったという。

また他の、育児休業を取った男性は、父親が育児をすることの4つの幸せというものを提示していた。それはまず、「子どもの幸せ」。子育ては、母親が主役として論じられることが多いが、本当の主役は子どもである。子どもは多様な価値観や環境の下で育てられるべきであるため、母親とだけではなく、父親とも多くのコミュニケーションをとるが必要であるという。2つめは、「母親の幸せ」である。現在、子育てにより孤独しがちな母親が多い。父親が1緒に子育てをすることにより、孤独から解放され、子育ての話しも共有できる。辛さは半分、幸せは2倍となる。3つめは、「父親の幸せ」である。現代の日本の男性は、生活に占める仕事の割合が多い。そのため、仕事が上手くいかないことで自殺や鬱、または過労死という痛ましい事象に繋がってしまう。しかし、育児をすることで、家族や子どもの価値を再認識し、別の価値観や生きがいが生まれてくるのである。最後の幸せは、「社会の幸せ」である。前記3つの幸せにより、心身ともに豊かな家族が増えることが、社会に繋がるという。このように男性が育児をすることで、多くの理解や価値観が生まれてくるのである。

少しずつ男性の育児休暇も増加してきているが、まだまだ足りていない。まず、「男性が育児をするなんて」という意識を変えるために、短期間でも育児休暇を取っていく制度や環境を構築していくことが必要である。また、育児休暇を取得することを最終目的にするのではなく、男性の育児参画を引き金として、家族の中での育児の仕方や、今後の働き方の見直しについて考えていくことが重要なのである。

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第2章 変わりゆく子育て支援対策

第1節 少子化対策の流れ

第1項 エンゼルプランから、次世代育成法へ

エンゼルプラン
わが国において、政府が出生率の低下と子どもの数が減少傾向にあることを「問題」として認識し、子育て支援の対策に取り組み始めたのは、1990年の「1.57ショック」以降のことである。これを機に、厚生省(現、厚生労働省)が中心となって、仕事と子育ての両立支援など、子どもを生み育てやすい環境づくりに向けての対策の検討が行われ始めた。

最初の具体的な計画は、1994年12月に策定された「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(エンゼルプラン)である。子育てを夫婦や家庭だけの問題として捉えるのではなく、国や地方公共団体をはじめ、企業・職場や地域社会も含めた社会全体で子育て支援を支援していくことをねらいとし、政府部内において今後10年間に取り組むべき基本的方向と、重点施策を定めた計画であった。

このエンゼルプランを実施するために、保育所の量的拡大や低年齢児(0〜2歳)保育や、延長保育などの多様な保育サービスの充実、地域子育て支援センターの整備などを図るための「緊急保育対策等5ヵ年事業」が策定され、1999年度までの前半5年間に整備する目標値を掲げた。これには、中核となる保育制度を充実させ、産みたい人が産みやすい環境を整えると共に、出生率低下を防ぐねらいがあった。財源は、1997年4月の消費税引き上げ分の1部や、一般財源を充当し、5年間の累積で、約6000億円の事業費を追加的に上乗せした。

新エンゼルプラン
その後の1999年12月、少子化対策推進関係閣僚会議において、「少子化対策推進基本方針」が決定された。この基本方針では少子化の原因として晩婚化の進行などによる未婚率の上昇が挙げられた。また、それの対応策として少子化対策の趣旨は、仕事と子育ての両立の負担感や、子育ての負担感の緩和・除去し、安心して子育てのできるような様々な環境整備を進め、家庭や子育てに夢や希望を持つことができるような社会にしようとすることであるとした。

同年12月、基本方針に基づく重点施策の具体的実施計画として、「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について」(新エンゼルプラン)が策定された。新エンゼルプランは、従来のエンゼルプランと緊急保育対策など5ヵ年事業を見直し、2000年度を初年度として、2004年度までの計画とした。

また「新エンゼルプラン」では、民間事業やNPOなどの地域の活動団体による子どもの育成事業も整備していくことが盛り込まれている。より一層、少子化対策という目的を表面に打ち出した「新エンゼルプラン」によって、少子化を理由とした子育て支援サービスの実施に取り組む姿勢が明確になった。

2002年9月、厚生労働省において「少子化対策プラスワン」がまとめられた。これは、従来の取り組みが、仕事と子育ての両立支援の観点から保育に関する施策を中心としたものであったのに対し、「男性を含めた働き方の見直し」や「地域における子育て支援」なども含めて、社会全体が一体となって総合的な取り組みをしていこうと提言をするものであった。

2003年3月、少子化対策プラスワンを踏まえて、少子化対策推進関係閣僚会議において、「次世代育成支援に関する当面の取り組み方針」が決定された。この方針では、家庭や地域の子育ての低下に対応して、次世代を担う子どもを育成する家庭を社会全体で支援(次世代育成支援)することにより、子どもが心身ともに健やかに育つための環境を整備することを掲げた。また、地域公共団体及び企業における10年間の集中的・計画的な取り組みを促進するため、新法(次世代育成支援対策推進法)の制定や児童福祉法の改正など一連の立法装置を講じることとした。

第2項 次世代育成支援対策推進法以降の動き

次世代育成支援対策推進法
2003年7月、「次世代育成支援対策推進法」が制定された。これは、2005年度から10年間の時限立法で、5年後に見直すものである。所管は、厚生労働省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、警察庁の7省庁である。地方公共団体及び事業主が、次世代育成支援のための取り組みを促進するために、それぞれ行動計画を策定し、実施していくことをねらいとしたものであり、仕事と子育ての両立だけではなく、全ての子育て家庭に支援対象を拡大し、対策を大幅に強化した。

次世代認定マークこの法律の最大のポイントは、企業の育児支援義務を大幅に強化したことである。常時雇用する労働者が300人を超える企業は、目標値を含む2005年度からの一般事業主行動計画を策定し、厚生労働大臣に届け出なければならない。届出のない場合は、期限を定めて勧告する。ただし、好評の義務や罰則規定はなく、 300人以下の中小事業主は、計画を策定し、届け出るように努める義務にとどめた。地方公共団体及び事業主の行動計画策定に関する規定は、2005年4月から施行されている。

またこの法律では、事業主が適切な行動計画を策定し、目標を達成すると、都道府県労働局の認定マークを広告、商品、採用情報に使用できる仕組みを設けている。また、モラル向上による生産性向上や、人材確保の効果も大きいとされている。

認定の条件は、[1]男性の育児休業取得者がいる。[2]女性の育児休業取得率が、計画期間前3年間を含め70%以上、[3]子どもが就学前の勤務時間短縮の制度化、[4]残業削減、有給休暇取得促進、その他の働き方の見直しのいずれかを実施していることである。

少子化社会対策基本法と少子化対策大綱
2003年7月、議員立法により、「少子化対策基本法」が制定され、同年9月から施行された。この法律は、我が国における急速な少子化の進展に対し、的確に対処するための施策を総合的に推進することを目的としたものである。この法律に基づき、内閣府に少子化社会対策会議が、特別機関として設置された。これは、内閣総理大臣を会長にとし、全閣僚によって構成されている。

また、この法律では少子化に対処するための指針として、総合的かつ長期的な少子化に対処するための施策の大綱の策定を政府に義務付けている。そのため、これを受けて2004年6月、「少子化社会対策大綱」が少子化社会対策会議を経て、閣議決定された。

この大綱のキーワードは、「少子化の流れを変える」である。これまでとられた対策の不十分さを見直し、この大綱では、子どもが健康に育つ社会、子どもを生み、育てることに喜びを感じることのできる社会への転換を差し迫った課題として掲げ、少子化の流れを変えるための施策に集中的に取り組むこととしている。

少子化社会対策大綱では、少子化の流れを変えるために「3つの視点」と「4つの重点課題」、「28の具体的行動」を提示している。(下図参照)

出典:平成17年度版 少子化社会白書

第3項 子ども・子育て応援プラン

少子化社会対策大綱に盛り込まれた施策を、効果的に推進するための「施策の具体的実施計画(新新エンゼルプラン)」として、2004年に策定されたのが、「子ども・子育て応援プラン」である。これは、少子化社会対策大綱の掲げる4つの重点課題に沿って、国が地方公共団体や企業等と共に、計画に取り組む必要がある事項について、2005年度から2009年度までの5年間に講ずる具体的な施策内容と目標を掲げている。また、次世代育成支援推進法に基づき、市町村と都道府県、従業員301人以上の企業に対して次世代育成支援に関する行動計画の策定等が義務付けられたことも関連付けられている。

エンゼルプランや新エンゼルプラン等では、保育事業を中心に目標値が設定されていたが、子ども・子育て応援プランは少子化社会対策大綱に基づき、若者の自立や働き方の見直しなども含めた幅広い分野で具体的な目標値を達成している。またここでは、概ね10年後を展望した「目指すべき社会」の姿を提示している。(下図参照)

出典:平成17年度版 少子化社会白書

第4項 今後の課題

1994 年に発表された「エンゼルプラン」から本格的に取り組みが開始したとされている少子化対策も、今年で12年目になる。しかしながら出生率の減少は止まらず、今年も最低の「1.25」を記録した。少子化対策を推し進めるためには制度だけを整えるだけではなく、根強く残る「男は外で働き、女は中で働く」という構造や、「『働くこと』と『子育て』の対立構造」を撤廃し、男女共に育児休暇を取りやすい環境をつくることが必要である。実際、「勤務先の育児制度に満足」しているのは、8.7%しかおらず、その理由として「効果はあると思うが、利用は難しい」との回答が多かった。また法律(次世代育成支援法)の認知度も低く、企業で働く小学校3年生以下の子どもを持つ親の77%が同法の存在を「知らない」と答えた。政府や企業の取り組みに対し、当事者自身が無関心である実態がある。

上に挙げたような構造というのは、第1章でも述べてきたように、元々は政府が固定させてきた概念であるため、政府の責任はとても大きいと感じる。今回策定された「子ども・子育て応援プラン」は、多様な側面から少子化に対応している、画期的な計画であると考える。政府は今後、計画を計画に終わらせないためにも、実際に国民の関心を引き、動かすようなプロジェクト を行なっていく必要性もあるのではないかと考える。

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第2節 子育て支援と労働支援

第1項 働く女性の労働状況

子どもを持つ親が働き続けるためには、子育ての支援だけではなく、労働に関する支援もとても重要である。この節では、子を持つ労働者に対する支援について論じていく。

まず、下の図8は、とても有名な「年連階級別労働力人口比率」を曲線で表したもので、俗に「女性のM字型曲線」と呼ばれている。このグラフを見ても分かるように、子育て期の20代後半から30代の間の女性の就労率は、他の時期と比べて低くなっている。一方、男性の就労率は変わらず、一定の高い水準を保っている。このグラフだけを見ると、「子育て期に女性が退職していることは問題であるが、その後は20代前半の女性と同じ割合で働いているから良いのではないか。」と感じるかもしれない。しかし図9を見てみると、再就職をする場合は、一般の就労形態ではなく、パートタイム労働者労働を行なっている割合が大半であることが分かる。

厚生労働省「パートタイム労働者総合実態調査」(2005)によると、パートタイム労働者がパートタイム労働者としての働き方を選んだ理由として「家事・育児の事情で正社員として働けないから」と回答した人の割合は、男性が0.1%であったのに対し、女性は28.9%であった。また、パートタイム労働者の賃金水準は正規雇用者よりも低く、女性の正規雇用者と比べても、その60%に満たない賃金となっている。(図10)そのため、女性のパートタイム労働者のうち、主に自分の収入で生活している者は、20%にも満たない。このように日本の女性は、「継続して正規雇用で働きたい」かどうかに関わらず、再就職としてパートタイム労働者を選ばざるを得ない状況となっている。

つまり現在、子どもを持つ女性にとって、パートタイム労働者労働は働き方の選択肢の1つではなく、選択せざるを得ない働き方となっており、またそのことで賃金や待遇の格差が生まれていることが問題なのである。

この問題を解決するためには、正規雇用で働き続けるための制度や環境、またはパートタイム労働者と正規雇用者の待遇の均等化が重要である。この後は、オランダでのワークシェアリングについて紹介し、今後の日本の労働における支援の方法への参考としていきたい。

第2項 オランダから学ぶワークシェアリング

オランダは、パートタイム労働者の均等待遇を行なうことで、高失業率が回復し、女性の労働力も増加し、人々の暮らしぶりも変化させた。

オランダでのパートタイム労働者は、日本のパートタイム労働者とは全く異なっている。オランダでは2000年の労働調整法により、従業員10人以上の企業において、労働者が一定の条件を満たせば労働時間を短縮・延長する権利を持ち、時間当たりの賃金は、週労働時間を変更する以前と同じ水準に維持されることとした。また法律と労働協約においてパートタイム労働者とフルタイム労働者の「時間当たりの賃金の同一」など均等に扱うことが定められている。

このようにオランダでは、すべての労働者に適用される最低賃金法や、短時間勤務を請求する権利が与えられているため、高賃金の仕事の一部にもパートタイム労働者就労が広がっており、パートタイム労働者が極端に低賃金の部門に集中するという状況にはなっていない。またオランダの年金制度は、パートタイム労働者で働いた期間や臨時契約によって雇用が中断された期間が、その受給に不利にならないように設計されているのである。これらの政策は、元々「失業者対策」としていたのだが、現在では労働者自身が「働く時間を選択できる制度」として定着しているのである。

これらの制度のおかげで、週20〜34時間働くパートタイム労働者は、経済的に自立した層と見られている。2人の子どもを持つシングルマザーで、週4日、32時間勤務をしている女性も、児童手当などを加えると、ゆとりのある暮らしぶりとなっているのである。

もともとオランダは、伝統的な性別役割分業が強い国だった。しかしオランダモデルが浸透し、男女の間でペイドワーク(有償労働)と、家事・育児などのアンペイドワーク(無報酬労働)の再分配が進んできた。保育園では、朝夕の送り迎えは父母がほぼ半数であり、若い層では家事・育児も分担することが当然となっている。アメリカでは、男女ともフルタイムで働く「1+1=2」型。日本は、どちらか一方が働く「1.5+0=1.5」型。だとすれば、オランダは夫婦それぞれが同じ位働く「0.75+0.75=1.5」型というのが、主流の考え方なのである。

「日本人は、いきがいを『働くこと』に求める傾向がとても強いため、ワークシェアリングは日本に適応しない」と鹿嶋が講演会にて話していたが、このオランダのワークシェアリングは、日本の社会に応用できるものではないかと考える。現在、働く女性の約50%がパートタイム労働者であり、彼女たちは正規雇用者の賃金の60%弱しかもらっていないという現状がある。また、若者の約50%もパートタイム・アルバイトで働いているのである。つまり現在、パートタイムの雇用形態が増加しているにも拘らず、パートタイム労働者の保障がほとんどされておらず、人々が働き方の自由な選択ができていない状態であるといえる。

働き方の選択の1つとしてパートタイム労働を行なうためには今後、まずパートタイム労働者と正社員の均等待遇の徹底が必要である。つまり、時間当たりの賃金や責任の同一化や、能力評価制度の整備、退職金を含めた賃金・人事処遇制度全般について、整備していくことが求められている。またそれと同時に、労働者の意思でパートタイム労働者からフルタイムへ、フルタイムからパートタイム労働者へと相互に転換できる権利の保障がとても重要となってくる。

このようなことを行なうことは、企業側にもメリットがある。その最大のメリットというのは、「優秀な人材を確保できる」ことである。現在、めまぐるしく事業が展開していく企業にとって、短期間だけ雇うことができるパートタイム労働者は、不可欠な存在になってきている。しかしながら、パートタイム労働者の処遇の悪さにより、パートタイム労働者自身の働く意欲が低下することで、必ずしも優秀な人材をパートタイムで採用することができない現状がある。

しかしながら、賃金や責任上の処遇を対等にすることで、優秀な人材がパートタイム労働者として働き始めるようになる。また今までのパートタイム労働者も、意欲の高まりにより、仕事効率が上がるのである。実際に、パートタイム労働者と正社員との処遇制度間の均衡を図ることが企業の経営パフォーマンスに有意な影響を与えるということを実証した最近の分析例も見られている。

現在、パートタイム労働者と正社員との不合理な仕事の垣根や処遇の違いは経営にとってもマイナスであるとの意識が高まりつつある。そのため、企業ブランドを高めるためにも、組織の活力を高めるためにも、パートタイム労働者と正社員の均等待遇や多様な勤務形態を整備することは重要になってきているのである。
次節からは、企業が行なっている子育て支援の現状について論じていく。

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第3節 企業の子育て支援対策

第1項 企業の子育て支援の現状

ここでは、働く人の子育て支援には欠かすことのできない、企業からの支援の現状を調査 から見ていく。

まず企業に対し、「従業員の子育てと仕事の両立を支援するための環境づくりでは、何を行っているか」という問いに関して、「特に行なっていない」との回答が72.1%を占めた。何らかの取り組みを行なっている場合の内容としては、「定期的な労使間の話し合い」が最も多く、8.7%であった。

また従業員に対し、「子育てと仕事の両立を促進するための環境づくりとして、現在勤めている企業に必要な取り組みは何か」と聞いたところ、「管理者に対する研修(仕事と子育ての両立支援の重要性や具体的な手法などについて)」が最も多く、37.9%。次いで「調整担当者の設置(上司以外に仕事と子育ての両立に関する相談ができる担当者)」が28.4%となっており、職場での理解と両立支援のための仕組みづくりを求める声が多かった。それに対し、「特に必要とは思わない」という回答は25%に止まっており、企業側と従業員側に大きな隔たりがあることが分かる。

企業が実施している子育て支援策としては、「家族手当(子どもがいる人が対象のもの)」が57.3%と最も多く、次いで「子どもに関する祝い金・見舞金(出産や入学など)」が52.9%、「半日や時間単位の有給休暇(所定外労働の振り替えを含む)」が43.9%であった。その他には、「短時間勤務(所定内労働時間の短縮)」が34.0%、「所定外労働の免除(残業免除)」が28.1%、「法定以上の機関の育児休暇」が24.8%、「子どもの看護のための休暇」が21.4%と続いている。

このような子育て支援の項目は、従業員が多いほど充実している傾向がある。特に労働時間関係の項目が著しく多くなる。これは、働き手が多いために可能になってくるのではないか。また休暇関係では、「法定以上の期間の育児休暇」は従業員の多い程充実しているが、「子どもの看護のための休暇」や「子どもの行事参加のための休暇」では、従業員が少ない方が充実している傾向が見られる。これは、従業員数が少ないほうが、従業員間のコミュニケーションが取れており、プライベートな事由での休暇の融通が利きやすくなっているといえる。逆に、従業員数の多い大手企業だと、休暇が取りづらい環境であるといえる。

従業員に対し、「企業が行なっている子育て支援策のうち、役に立つと思うもの」を聞いたところ、「家族手当(子どものいる人が対象)」が54.3%で最も多く、次いで「子どもの看護のための休暇」51.3%や、「子どもの行事参加のための休暇」50.7%が半数以上の高い割合を示した。この「子どもの看護のための休暇」を実施していると回答のあった企業(98社)に「看護休暇中の給与は有給かどうか」と尋ねたところ、「有給」は46.9%であり、「一部有給」と合わせると60%に達した。また、看護休暇の対象年齢は、「年齢制限なし」が57.1%と半数を超えており、更に所得可能日数は「40日以上」が 17.3%となっていた。

企業が実施している子育て支援と、従業員が役立つと考えている支援策とを比較してみると、ほとんどのものに差が見られる。最も差が大きいのは、「保育費用の補助」であり、40%近い差がある。また、従業員の中で高い水準の「子どもの看護のための休暇」や「子どもの行事参加のための休暇」は、約30%の差がある。逆に、企業側の行なっているものの中で高い水準であった「子どもに関する祝い金・見舞金」は、従業員側はあまり必要としていないということが分かる。

また、短時間勤務やフレックスタイムを行なっている企業に、「その制度の対象となる子どもの年齢」を尋ねたところ、法律で定められている対象年齢である「3歳未満」が最も多く、50.7%であった。しかし、従業員側は65%あまり小学校低学年、あるいはそれ以上の年齢までを希望していた。

このように企業が行なっている支援と、従業員側が求めている支援には、かなりのギャップがあることが分かる。このままでは、いくら国が両立支援を打ち出しても、現実に達成することはとても困難である。特に、「子どもの看護のための休暇」に関しては、保育園などで病気の子どもを預かってもらえない現状があるため、早急に整えていくべき項目なのである。企業は従業員側の意見により耳を傾け、優先順位を付けながら、子育て支援を行っていく必要性があるのである。

第2項 「ファミリー・フレンドリー企業」の子育て支援の取り組み

前項で、現在企業がほとんど子育て支援を行っていない現状について述べてきた。しかしながら、子育て支援に力を入れてきている企業も増えてきており、その企業のことをファミリー・フレンドリー企業という。

ファミリー・フレンドリー企業は、仕事と育児・介護とが両立できるような様々な制度を持ち、多様でかつ柔軟な働き方を労働者が選択できるような取組を行う企業のことをいう。具体的には、以下の4本柱が当てはまる企業である。

[1]法を上回る基準の育児・介護休業制度を規定しており、かつ、実際に利用されていること
・分割取得できる育児休業制度
・通算93日を超える介護休業制度
・年5日を超える子どもの看護休暇制度 等
[2] 仕事と家庭のバランスに配慮した柔軟な働き方ができる制度をもっており、かつ、実際に利用されていること
・育児や介護のための短時間勤務制度
・フレックスタイム制 等
[3]仕事と家庭の両立を可能にするその他の制度を規定しており、かつ、実際に利用されていること
・事業所内託児施設
・育児・介護サービス利用料の援助措置 等
[4]仕事と家庭との両立がしやすい企業文化をもっていること
・育児・介護休業制度等の利用がしやすい雰囲気であること。
・特に、男性労働者も利用しやすい雰囲気であること
・両立について、経営トップ、管理職の理解があること 等

では今年、厚生労働大臣優良賞 を受賞した、住友スリーエム株式会社(以下「スリーエム」)についてみてみる。スリーエムは、「充実した両立支援制度で社員が安心して働ける職場環境づくり」を目標として掲げており、その達成のため、労使による「次世代育成支援プロジェクト」を立ち上げ、組織全体で両立支援の取り組みを行っている。

育児休業制度は、子が満1歳に達した日の月末まで取得可能であり、女性の育児休業取得率は過去3年間100%を誇っている。平成17年度には男性1人が育児休業を取得し(取得率1.8%)、平成18年度には男性管理職が取得している。また短時間勤務制度があり、子どもが小学校1年生の7月末まで利用可能となっており、育児費用の補助としては、「ベビーシッター費用補助」が年間90回まで、1回当たり1,500円まで支給される。

その他の支援としては、「フレックスタイム制(育児、介護目的に限定しないで利用可)」や、「ファミリーサポート休暇(年5日間・有給)」 、「配偶者出産休暇 (2日間・有給)」、「育児手当金(育児休業日数×標準報酬日額の30%)」、がある。

また、育児休暇後の社員をサポートするために、「再雇用制度(平成18年度中に導入予定)」や「職場復帰のための、育児休業中の情報提供やオンライン講座」を実施している。このような制度があるほか、男性の育児休業の取得について上司が奨励し、社内報で取得体験を紹介するということで、より育児休業が取りやすい環境となっているのである。

第3項 A社の子育て支援の取り組み

ベビーシッターインターン
ここでは、私がインターンを行なって関わった企業が行っている、独自の子育て支援の取り組みについて紹介していく。

A社という「育児・介護休暇やうつ病などによって休業をしている人を支援するサービス」を行っている会社では、子連れ出勤を行っている。そのため、社長の子ども(現在、生後7ヶ月)が常にオフィスにいるという状態となっているのである。そこで学生のベビーシッターインターンを募り、オフィスにて学生に子どもをみてもらうという体制をとっている。このベビーシッターインターンは、自分の都合に合わせてシフトを入れて、子どもをみる目がない日が無いようにしている。最初は1.2人から始めたベビーシッターインターンも、今では50人もの学生が登録している。男女の割合としては半々くらいであるが、主に入っているのは、意外にも男子学生の方が多い。最初は、赤ちゃんに触ることもためらっているのだが、抱っこをしてみると「可愛い!」と言い、とても笑顔になる。自分があやすことで、赤ちゃんが笑うのを見て、余計に嬉しくなり、はまってしまうようだ。

社長はベビーシッターインターンに子守をさせる理由として、「現在は核家族化が進み、『子どもがいる家庭』をみる機会が無くなってしまったので、学生の時期から子どもと触れる機会を作り、少しでも子どもを欲しい・産みたいと思うようになって欲しい。」と言っていた。身近なところから始まる少子化対策の試みなのである。

実際、ベビーシッターインターンをしている学生にインタビューを行った。すると、社長のねらい通り、どの学生もインターンを始める前よりも、「子どもが欲しくなった」という意識が強まったと言っていた。また子育てを経験することで、子育てに対する自信ができ、必ずしも「女性が育児に優れている」とは思わなくなったとも述べていた。「育児の負担感」に対しても、その辛さが理解できたという意見が多かった。特に男性は、この負担感を知ったことで、「将来仕事に就いてからは、育児を協力して行っていく」と考えるようになっていたのだ。またA社で働く社員も、「自分も将来子どもが欲しいと思うようになった。」と語っていた。

この会社の取り組みは、前項で述べてきたような制度的な支援策とは異なり、環境的・意識的な対策を行なっているといえる。このことを行なうことで、社員の「子育てと仕事の両立」への心理的なハードルを下げることと同時に、子どもがいない若い世代が子どもに関心を持つきっかけにも繋がっているのである。

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第3章 世界の子育て支援

この章では、少子化対策が進んでおり、国民が「産み育てやすい」と感じている、スウェーデンとフランスの子育て支援について見ていく。スウェーデンで「異国が子どもを産み育てやすい社会だ」と感じている人は、97.6%、フランスでは68%であった。日本とこれらの国の育児制度を比較し、日本がどのように応用していくべきか考察する。

第1節 日本の子育て支援の実態

第1項 制度

日本の育児に関する制度は、大きく分けて「給付制度」「育児休業制度」がある。(制度の概要は、本論文末の[参考]にて掲載)

給付制度
日本の給付制度は貧困救済的な要素が強く、所得制限などの条件がある。
「児童手当」は、2006年4月から支給対象年齢が、これまでの小学校3年生(9歳到達後最初の年度末)までから、小学校6年生(12歳到達後最初の年度末)までに拡大され、併せて、所得制限が引き上げられた。
第1子は5000円、第2子も同額の5000円、第3子以降は、10000円が支給される。
「児童扶養手当」は、18歳までの子どもを扶養する母子家庭に支給される。
所得により、全額支給と一部支給がある。児童が1人の場合、月額41,720円。児童が2人だと月額46,720円。 児童が1人増えるごとに月額3,000円が追加される。
「特別児童扶養手当」は、20歳未満の心身障害児を養育する父母又は養育者に対して支給される手当。障害状況に応じて1級、2級に規定されており、手当月額は1級 50,750円、2級 33,800円。

育児休業制度
日本で始めて育児休業制度が成立したのは1991年であり、その後に1995年、2000年と改定を行い、2005年に「育児・介護休業法の一部を改正する法律」が成立、施行された。
「育児・介護を行う労働者が、職業生活の全期間を通じてその能力を有効に発揮し充実した職業生活を営むことができること、育児または介護について、家族の一員としての役割を果たすことができること」を、基本理念とし、労働者であれば、全ての人がこの制度を利用する権利がある。
[1]産前・産後休暇
妊娠した働く女性は、会社の規模などに関係なく、誰でも取得できる権利。産前休業は、申請により出産予定日の6週間前(多胎の場合は14週前)から、産後は申請なしで8週間の休暇を取得することができる。ただし、医師の証明を付ければ6週間目から仕事に復帰することが可能。職場の担当者を通じて事業主に申請を行なう。
[2]出産育児一時金
健康保険および国民健康保険に加入している人かその配偶者が分娩(妊娠4ヶ月以上の分娩)したとき、1人の出産につき30万円の一時金が受給できる。
[3]出産手当金
健康保険に加入していた母親が、無給で出産休暇を取った場合の手当。1日の給与の60%×産前産後の無給休暇の日数(最高98日まで)が支給される。1年以上健康保険に加入していた人なら、退職後6ヶ月以内の出産の場合は受給が可能。
[4]育児休暇
子どもが満1歳になるまで(事業主が3歳までの育児のための休業を採用した場合はその時まで)は、母親・父親のどちらでも希望する期間を休業できる制度。ただし、連続取得が条件となっている。休業せず、勤務時間短縮等の措置を利用することも可能であり、逆に保育園が見つからないなどの理由で、休業期間を延長することも可能。また、有期雇用者(パートタイム労働者・派遣社員)にも一定の条件付で適用されるようになった。
育児休暇中の手当は、給与の30%を保障し、休業終了時に休業中の給与の10%が給付される。(雇用保険に加入している者のみが対象)

第2項 保育サービス

現在、子育て世帯が70%を占めている。それに伴って、保育園のニーズが増大し、待機児童が増え続けている。2001年4月現在で、全国の待機児童は20,749人である。
待機児童が発生する原因は、保育所の定員を保育所への入所を希望する児童が上回っているといった要因の他に、勤務形態の多様化に伴い、11時間の保育を基本とする認可・公立保育所では対応できない長時間・夜間保育を希望するケースがある。また、あるいは勤務に都合のいい保育所への入所が果たせないために断念するケースもある。
これらの問題を解消するために、2006年に幼稚園と保育園を統合した「認定こども園」が誕生した。女性の就労の増加に伴い、長時間子どもを預かる保育園のニーズが急増した一方で、幼稚園を利用する子どもの数が急減したことがきっかけである。認定こども園は、既存の幼稚園や保育園が移行する場合が大半で、都道府県が接待した基準により、こども園を認定する。2歳児までは今の保育園の機能とほぼ変わらず、3歳児以上から変化する。昼過ぎまでは合同学級で幼児教育を受け、家庭で保育できる子どもは、幼稚園と同様に帰宅。それ以降は、現在の保育園のように保育をするというスタイルになるのである。そのため、3歳児までの子どもを持つ共働き世帯の預け先が増えるとこととなる。実際に子どもが通うようになるのは、2007年4月からとなる。
また、認定保育園のほかに、放課後保育、保育ママ、ベビーシッターなどのサービスで補完している。また企業によっては、企業内託児所を設けているところもある。

[1]保育所(保育園)
厚生労働省管轄の、保育に欠ける0歳〜就学前の子どもが対象。保育時間は、原則8時間であり、職員は保育士の資格を有している。

[2]幼稚園
文部科学省管轄の、学校教育法に基づく幼児教育が目的で、3歳〜就学前の児童が対象。職員は幼稚園教諭の資格を有している。

[3] 認定こども園
幼稚園と保育所を合わせたもので、管轄は厚生労働省と文部科学省の両省。

[4] 家庭的保育(保育ママ)
満3ヶ月より3歳未満の児童が受けられる、保育ママの自宅で家庭的な雰囲気の中で少人数を保育するサービス。保育ママは、保育士の資格を有している。民間の団体が家庭保育の有償ボランティアを仲介・支援している場合が多い。

[5]児童館
遊びの場を保障する児童福祉施設。専門の児童厚生員がサポートを行なう。また、学童保育の事業を担う「児童クラブ」や、主に専業主婦とその子どもの支援を目的とした「幼児クラブ」の活動も行なっている。

[6]放課後児童クラブ(学童保育)
共働き家庭の子どもが、放課後に生活する場として提供されている。
75%の指導員が保育士などの資格を有しているが、資格取得の義務は無い。

[7]ベビーシッター
民間の企業が行なっているベビーシッター派遣会社を通し、ベビーシッターを雇うケースが大半である。乳幼児を子どもの家で預かったり、小学生の送り迎えのサービスも行なっている。また病後児保育を行なっているところも多く、とてもニーズが高い。料金は会社によって異なるが、1時間平均1500円程度である。勤めている会社によっては、ベビーシッターの補助券などを支給しているところもある。

[8]ファミリーサポートセンター
厚生労働省の少子化対策のひとつとして、1994年から開始された「仕事と育児両立支援特別援助事業」。国からの補助を受け、自治体が設立と運営を行なう。現在では、母親の就労に関係なく支援の幅を広げている。中心的なサービスは、センターに登録した依頼会員と提供会員のコーディネートを行なう。預かる側は、原則自宅にて保育を行なう。その他、講習会や交流会なども実施している。

第2節 スウェーデンの子育て支援

第1項 少子化の現状

スウェーデンは、国土約45万km2(日本の約1.2倍)、人口約908万人(日本の約7%)の国である。スウェーデンで2004年に誕生した子どもは10万928人に達し、1995年以来初めて10万人の水準を回復した。このうち40歳以上の女性による出産数は3,300人となり、年々増加傾向にある。30代による出産数も伸びており、10年前の約2割増、全体の6 割近くを占める。これに対して20代の出産は年々減少し、全体の4割に満たず、30代と逆転している。出産のタイミングが遅くなると、女性が最終的に産む子供の数も低下する可能性が高いと推測されているものの、合計特殊出生率では高い水準を保っており、近年では上昇傾向にある。この理由として、婚外子が多いことが挙げられる。スウェーデンでは、サムボと呼ばれる事実婚カップルが、サムボ法(Sambolagen)という法律により、法律婚カップルとほぼ同様に保護されている。また親子法により、サムボカップルの子どもに対する法的差別も全くない。内閣府経済社会総合研究所編「スウェーデン家庭生活調査」によれば、このように制度が整備されていることもあり、法律婚カップルの9割以上がサムボを経験しており、法律婚への移行過程として機能していると考えられる。サムボはライフスタイルのひとつとして社会に受け入れられ、現在では生まれてくる子どもの半数以上が婚外子(2003年現在では、56%)である。ただし、出生順位別にみると、第1子の婚外子率は65%に達するものの、第2子では44%、第3子では29%に減少しており(1990年代)、サムボが法律婚に移行する前の段階として定着していることを示している。

第2項 制度

スウェーデンでは、「福祉は<必要な人に>与えられるべきものだが、教育は<すべての人に>与えられるべきもの」という普遍主義的な考えがある。その観点に基づいて、1996年7月、スウェーデンの保育園は社会省から教育相の管轄へ移行した。このことにより、それまでの保育サービスという位置づけは、就学前教育システムへと転向したのである。またこの翌年の秋には、就学可能年齢は7歳から6歳に引き下げられ、希望があれば6歳から小学校に入学できるようになった。

1998年には、保育に関する法規定が「社会サービス法」から「学校法」に移行した。また就学前教育に初のカリキュラムが制定され、乳幼児へのケアと教育の両方を重視する方針が明確にされたのである。このように、スウェーデンの保育制度は、教育制度へほとんど移行したのである。

育児・家庭支援に関しては、普遍性の原則と個人の権利に基づいて、「児童・家庭給付」、「両親保険」、「保育システム」の3本柱で、政策が構築されている。

児童・家庭給付
スウェーデンの児童・家庭給付は、「こどもは親を選べない。どんな条件に生まれても、子どもが最低限の生活が保障されるように配慮する」という観点から行なわれており、4種類の給付がある。
「児童手当」は、16歳未満の住民登録を行なっている全ての子どもに、月額950クローナ(約1万6150円)が支給される。所得制限はなし。第2子までは同額だが、第3子には200クローナ(約3400円)、第4子に600クローナ(約7800円)、第5子以上に750クローナ(約1万2750円)が加算される。また子どもが16歳を過ぎても義務教育相当の学校に通っている間は、20歳までは学生補助金として同額が、延長児童手当として受け取れる。
「住宅手当」は、資産調査のあと、「住宅コスト」と「子どもの数」によって支給される。主な需給世帯は、低所得世帯かシングル家庭で、一般的な共働き世帯はほぼ対象外であるが、全体の30%の家庭が受給している。
「養育補助費」は、両親が離婚して一方の親と同居している子どもであって、もう一方の親が養育費を払わない場合に、国が養育費を立替払うものである。
障害児ケア給付は、障害のある子のケアのために親が会社を休業すると、休業中の所得が一定の上限つきで保証されるものである。また、ケアのために費用が発生した場合も、一定の条件に従って給付される。

両親保険-parental insurance- (育児休暇制度)
両親保険は、1974年に導入された育児休暇期間中の収入補填制度であり、両親が取得できるという点で世界初の試みだった。育児休暇の取得を男性にも義務づけ、育児参画を促進し、女性の家庭内労働の負担及び機会費用の負担軽減に寄与するという点が特徴である。
基本的な財源は、税金と住民登録のある全ての国民が16歳から掛ける「両親保険」で、子どもが生まれると国籍や就労に関係なく、180日以上社会保険事務所に登録している者は、誰でも何らかの手当てを受けることが可能。手当は、妊娠手当、一時介護両親手当、父親の出生休暇手当、こどもの出生を理由とする両親手当などがある。
「妊娠手当」は、女性が妊娠により仕事に就けない場合、給与の80%が最高50日間支給されるものである。「一時介護両親手当」は、子どもや両親の病気、子どもの予防接種、健康診断、通院などの場合、給付を受けながら欠勤することが出来る。12歳未満の子どもを持つ親の権利で、看護等のために休業期間について子ども1人当たり、給与の80%が原則60日間支給育児休業をした際に390日間は給与の80%が、残り90日間は60クローナ(最低保証額)が支払われる。
また、「父親の出生休暇手当」は、父親に立会い出産や、家事、他の兄弟のための出産を挟んだ10日分の休暇と手当て保障されている。実際に70〜80%の父親が、この休暇を利用している。
「こどもの出生を理由とする両親手当」では、子どもが生まれると2人で合計して480日間、手当てを受け取ることができる。この手当を受けている期間中は、育児休暇を取る権利が認められている。
480日のうち、390日間は休暇を取った方の給与の80%の額が支給され、90日間は1日60クローナ(最低保証額)が支払われる。この390日のうち、195日ずつは、母親と父親のそれぞれが休暇を取る権利があるが、配偶者に譲れないパパクォーター・ママクォーターはそれぞれ60日ずつ、どちらかに譲り合える分はそれぞれ135日ずつある。また、この「パパクォーター・ママクォーター」の部分は、権利のある方が休まない限り手当は受けられず、権利の放棄となる。
育児休暇は、出産10日前から8歳の誕生日までに親の事情に合わせて、出勤時間の全日、3/4日、1/2日、1/4日と取得することも可能で、連続してとらなくてもよい等、柔軟な制度となっている。
このように、幾重にも休業を保障することで、親は収入や地位の降格、解雇への不安を抱くことなく、休みを取ることができるのである。

保育システム
スウェーデンでは、両親が働くために子どもを託児所に預ける権利があり、地方公共団体は、子どもを預かる義務を法律で負っている。そのため、親が働いている等の理由で保育サービスを必要とする全ての1〜12歳児にサービスが提供されており、保育施設が充実している。2002年において、1〜6歳児の 81%、7〜9歳児の22%、10〜12歳児の9%という非常に高い割合で保育サービスが利用されている。0歳児に関する統計が見られないのは、1歳くらいまでは育児休業の取得や短時間勤務で対応することが前提とされており、0歳児保育自体があまり無いからである。
以下、施設型保育の紹介を行なうが、これらは主にコミューン(市町村)が運営している。

[1]就学前学校
1〜6歳の就学前児童を対象としており、日本の保育所に相当する。保育は、生涯教育の土台であるという考えから、家庭に近い生活空間と柔軟なスケジュールが設けられ、子どもの自立を尊重した保育が行なわれる。全日利用可能で、全体の8割以上の乳幼児が利用している。

[2]就学前学級
希望する6歳児が、無料で利用することができる。小学校の中に置かれ、就学前に集団生活を学ぶことを目的にしており、指導には就学前教室の教師、保育者があたる。午前中の3時間学んだ後、午後は併設の学童保育所に移動することが可能。

[3]学童保育所
6〜12歳の学童を対象としており、始業前、放課後、休日に利用でき、ほとんどの小学校に併設されている。

[4]家庭保育所
1〜12歳児を対象としており、4人までの子どもを保育ママ(「ダーグママ」と呼ばれている。)の家庭で保育を行なう。保育ママは、一定の資格を有してなくてはならない。

[5]公開児童センター
育児休暇中の0歳児とその親、そして家庭的保育をする保育ママたちが、     主要な利用者となっている。育児ストレスの軽減や、親教育が主な目的。センターに配属されているベテランの保育者に相談したり、ピアカウンセリングに参加することも可能。

第3項 その他の特徴

ワークシェアにより、育休がとりやすい環境
スウェーデンの育児休業取得率は、女性では80%、男性では80%弱と、男女共に高く、また職業の形態を問わず高い。スウェーデンで育児休業制度が機能している背景として、所得保障制度の充実や、休業そのものを取得しやすい環境が整っているからだといえる。まず所得保障制度は、賃金の80%が保障されていたり、両親が必ず取らなければならない育児休暇がある。それらの給付に加えて、スウェーデンの企業などでは独自の上乗せを行なっているケースが多く、 24.4%の事業所で実施されている。最大、給与の90%まで支給する事業所が最も多い。また環境としては、スウェーデンでは従業員が育児休業を取得した場合に「臨時契約社員を雇う」というケースが74.4%を占めている。日本では、代替要員を確保せず業務を分担するため、育児休業に当たり「職場への迷惑」がとても懸念されるが、スウェーデンではそのような風潮はあまり無い。また、短時間勤務制度やテレワークの利用も多い。休業者に対しては休業期間中の連絡を電子メールなどで行ない、休業者が復帰後に仕事へのブランクを感じることも無い。

さらに大きな特徴は、育児休業の利用に対して、スウェーデン社会では否定的な評価がほとんど見られない。これは、育児休業の利用が容易にできる体制や環境が整うことで、育児休業の取得やその後の働き方について大きな不安を持たせないことに繋がっている。

第3節 フランスの子育て支援

第1項 少子化の現状

フランスの合計特殊出生率は、1.89人(2003年)と、国際的にも高水準である。この数字は、欧州連合(EU)25カ国中でも保守的カトリック国アイルランドに次ぐ二番目の数字で、日本でもその高さが注目されている。フランスでは、25歳以上、49歳以下の女性の80.7%が仕事を持っているが、女性の社会進出が、出生率の圧迫には繋がっていない。出生率の伸びの背景には手厚い家族手当、行き届いた育児サポート制度などが指摘されている。

またフランスでは、欧州の中でも事実婚の同棲カップルの比率が最も高い。そのため婚外子が多く、パリ首都圏では45%が婚外子である。

「パックス(PACS)」 という、共同生活の多様な権利を保護する制度があり、離婚家庭や同性愛カップル、兄弟同士で結ぶことができる。この制度を背景に、事実婚家庭も法律婚同様の法的権利が確保されており、事実婚と法律婚の違いは社会的にはほとんどない。

第2項 制度

フランスでの「家族支援」は、日本のように「介護」は入っておらず、ほとんどが「子育て支援」を指す。フランスでは核家族が家族形態の前提であり、高齢者支援は退職者の保障の一環として捉え、家族の問題とは考えられていないのである。

フランスは、徹底した自由と自己決定の風潮をもっているため、制度に関しても選択肢が広範に用意してある。
子育て支援には大きく、「家族給付」、「育児休業」、「保育・教育システム」の3本柱となっている。その中でも、特にフランスは「家族給付」と「保育・教育システム」が世界的に見ても高水準なものになっている。

家族給付
フランスの家族給付は、「属地主義」に基づいており、フランスに住んでおり、一定の条件を満たす、すべての子どもに給付される。特徴としては、30種類以上にわたる多くの手当てが準備されているところである。これらは、とても出生を促進するために整備してあるため、第1子には少なく、子どもが多くなるにつれて支給額が上がる仕組みになっている。また家族給付の管理運営主体は、家族給付全国公庫が担っており、その財源は企業からの拠出金が最も多く、全体の約 6割を占める。一般社会税(家族関連給付の財源として1991年に導入されたもので、課税対象は給与、資本収入等で、税率は給与収入等について7.5%)が約2割、国庫からの拠出金が約1割という状況にある。

一般的扶養給付
[1]家族手当
収入には一切関係せず、住民票のある18歳(学生の場合は20歳)までの子どもを対象に、第2子から給付される手当。第2子では、115.07ユーロ(約 1万8000円)。第3子以降、1人につき147.42ユーロ(約2万3000円)が加算される。年齢加算もある、11〜16歳は、月額32.36ユーロ(約5000 円)、16〜19歳は、つき額57.54ユーロ(約9000円)が加算される。また、低所得者層への加算もある。

[2]家族補足手当
3歳以上の子どもを、3歳以上扶養している世帯に支給される。ただし、所得制限がある。〔3人の場合〕3人目以降の子ども1人につき、月額149.76ユーロ(約2万3500円)が支給される。

[3]家族扶養手当
両親の一方、または双方を失った遺児を対象に、その養育者に支給される手当。両親を亡くした場合は、子ども1人につき月額107.87ユーロ(約1万 7000円)。片親を亡くした場合は、子ども1人につき、月額80.91ユーロ(約1万2000円)支給される。

[4]単身手当
シングルの妊産婦。または子の養育者への所得補助。手当の額は、家族保障所得から本人の所得額を差し引いた差額。

出生関連給付
[5]乳幼児迎入れ手当
2004年から、従来の乳幼児手当、認可保育ママ雇用手当、養育手当、養子手当を再構成したもので、3歳未満の乳幼児を保育する者に対する給付。
1.第1子から基礎手当を支給
月収4,100ユーロ(約64万円)以下の家庭に、基礎手当として月額165.22ユーロ(約2万5900円)を3年間支給する。
2.出産先行手当として、出産時に支給
妊娠7ヶ月目から出産1ヶ月後の間に一括して826.10ユーロ(約12万円)を支給。所得制限あり。
3.職業活動の停止に対する付加給付(3年間)
子ども1人の場合は6ケ月まで、子ども2人以上の場合は3歳まで、父母のどちらかが職業活動を中断した場合に支給される。月額347.42ユーロ(約5万3000円)の付加給付。[1]と併給が可能。
4.保育方式による付加給付
託児所に預けた場合に比べ個人の保育ママを雇った場合の差額を補助。
特定目的給付

[6]特別養育手当
障害のある子どもの養育と教育補助。障害のある子ども1人につき、基礎額115.64ユーロ(約1万8000円)を支給。障害の程度に応じて補足額があり、重度の場合では、月額で約12万円程度支給される。

[7]両親在宅手当
重病や障害のある子どもの看護のために保護者が仕事を休職するか労働時間を短縮することに対する手当。所得制限がある。仕事を休む場合、カップルには月額 841.42ユーロ(約13万2000円)、1人親には999.19ユーロ(約15万6800円)が支給される。
パートタイム労働者で働く場合、カップルには420.73ユーロ(約5万7000円)、1人親には525.90ユーロ(約8万2000円)を支給。

[8] 新学期手当
9月の新学期に、修学年齢にある6歳以上18歳未満の児童を養育する者に支給される。所得制限あり。子ども1人につき、263.28ユーロ(約4万円)を支給。所得制限は、子ども1人の場合、年収17,011ユーロ(約267万円)以下で、1人増えるごとに、3,926ユーロ(約61万6000円)が制限額に加算される。

[9] 住宅手当
家賃生活者で、各種家族関係給付の1つ以上の受給権を有する者に、その所得から政令に定める最低限度の家賃を支払う者、保健・衛生、居住人数の点で最低限の要件を満たした住居に居住することを要件に支給。
このほかにも、自宅保育者手当(ベビーシッターを雇った際)、バカンス手当、学童期の新学期手当などがあります。また不妊治療、中絶の費用まで健康保険が適応される。

養育休暇
[1]1〜3年休職する、[2]パートタイム労働者労働(週16〜32時間)に移行する、[3]職業教育を受ける、のいずれかの方法又はその組み合わせを選択することができる。育児休業中は無給だが、要件を満たせば、乳幼児保育手当の賃金補助が支給される。
第1子には6か月間、第2子以降については3歳になるまで、休業あるいは勤務時間短縮の度合いに応じて就業自由選択補足手当(育児休業手当に相当)が支給される(完全休業の場合は、月額501.59ユーロ(約7万8000円)、勤務時間を50%以下に短縮した場合は、月額381.42ユーロ(約5万 9000円))、勤務時間を50〜80%に短縮した場合は、月額288.43 ユーロ(約4万5000円)である。財源は、家族給付全国基金や、事業主拠出金と税金で賄われている。
育児休暇は、男女共に取ることができるが、父親の育児休業取得率は低く、1〜2%となっている。また、それを促進させるための政策もない。

保育・教育システム
フランスでは、2歳8ヶ月から無料の預け先である「保育学校」が用意されている。そのため、産休明けからそれまでの間の預け先を考えれば良いこととなる。保育制度の選択肢も多様にあり、補助金や税の軽減措置も受けられる。
[1]保育学校
日本の「幼稚園」のようなもの。満2歳8ヶ月以降、排泄が1人でできるなど、子どもの発達に応じて入学させることができる。フランスでは、3歳児

[2]託児所
ほとんどの小学校に「ギャルドリ」という託児所が併設されており、保育学校の始業時間前や放課後の時間、保育を行なう。保育者は、資格が必要。
フランスでは、通常18時までが勤務時間なので、託児所は7時〜18時までが保育時間となる。公立の施設と、非営利団体経営のものがあり、料金設定も施設ごとに違う。

[3]一時託児所
共働きでない家庭の子どもの一時預かりを中心に開設している。3ヶ月〜6 歳児が対象で、時間単位の預かりをする。独立したものや、他の施設の中に間借りしてあるものがあるが、数は多い。公立と私立があり、共に土日は休館。1週間の利用日数が制約されている施設もある。

[4]保育園
両親が共働き、または母親が在学中などの場合に利用できる施設で、公立と私立のものがある。登録は妊娠中からすることが可能で、預かりは3ヶ月〜3歳が対象。定員は60名程度である。しかし数が少なく、利用できるのは、働く女性の10%程度。(3歳児以下の保育園率は9%)これを補うために、自治体は親保育園や、ミニ保育園を開設している。1般的なのは、後から紹介する「ヌヌー」である。

[5]親保育園
親が小さなネットワークを作り、保育者を雇って運営している施設。ここでは親自身も交代で保育に参加することが前提となっている。1つの施設には0〜6歳の子ども20人までとされており、主に0〜3歳児の親子が保育学校に入る準備期間として利用している。料金は親の収入と、どのくらい保育に貢献するかで決まる。

[6]レジャーセンター
自治体が開設しているセンター。給食代程度の安い料金で、指導員の資格を持った人たちが、ダイナミックな遊びや森の散歩、美術館訪問などのプログラムを行なっている。開所は、保育学校が休みとなる水曜日と土曜日。

[7]家庭的保育(保育ママ)
生後2〜3ヶ月から、保育ママの自宅で子どもを預かるシステム。
子どもの数は3人が限度で、預かりの時間は8時半〜19時。
認可と無認可があり、認可の場合は自治体の専門機関が60時間の研修や託児場所、保育ママの人柄、保育経験の有無などのチェックを行い、開業後も随時調査を行い、管理している。

[8]家庭保育園
保育ママと、保育園の中間形態のようなもので、保育園を受け入れの窓口とした、保育ママのネットワーク。窓口に「家庭保育園」を利用したいと申請すると、条件にあった保育ママを紹介してくれる。預けた後の要望や給与の支払いも保育園を通すため、とても柔軟で安全なシステムとなっている。

[9]ベビーシッター
夜の外出時に子どもをみてもらうときに使うサービス。昼間、働いている間の子守は「ヌヌー」(幼児語で「乳母」の意)と言い、移民の女性が低賃金で請け負っていることが多い。保育園が少ない分、このサービスを使って昼間の子守を補っているのである。

第3項 その他の特徴

無痛分娩
パリでは、90%が無痛分娩で出産している。正確に言うと、「硬膜外麻酔」によって、子宮と産道の神経をブロックし、苦痛を和らげる方法(通称「ペリデュラル」)を行なっている。全身麻酔ではないので、意識ははっきりしており、産声も聞くことができる。子宮収縮は抑えずに、陣痛の痛みだけを緩和するため、いきむこともできる。いきめるようにするため、完全に無痛になるわけではないが、比較にならないほど陣痛は耐えやすくなる。またこれらの費用は、100%保険で賄われるため、誰もが気軽に選択をできるのである。
しかしながら日本で「無痛分娩は危険」として、長い間敬遠されており、未だにほとんど行なわれていない。実際は、無痛分娩における子どもの影響はないと実証されている。母体についても、吐き気や頭痛、足がだるいなどのマイナートラブルが2、30%の割合が起きるものの、大きな事故は50万件に数件という割合である。「3歳児神話」のように「おなかを痛めて生む神話」というものが、日本では根強く残っているようだ。

日本の女性でも、「陣痛の痛みが怖くて出産をしたくない」と考えている人もいる。実際、「初めて妊娠をした時にどのようなことを考えたか」という質問に対して、「陣痛や分娩時の痛みについて」を挙げた人は16.6%いた。高い割合ではないものの、まず最初に「痛み」について考えた人が16.6%もいたということは、無視できない。このような人々のサポートしても、出産の仕方として「無痛分娩」という選択肢があるということが広まり、環境が整備されればと思う。

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考察

この章では、特に少子化対策が進んでいるスウェーデンとフランスの制度やサービスについて、細かく見てきた。その中で一番感じたことが、子育てに関する意識が制度に反映しているということである。日本の場合、「子どもは家庭で育てられるべき」といった意識で、子育て自体が家庭の問題であるとしている。そのため、保育サービスの充実がされておらず、待機児童が増えている現状があり、手当も「貧困救済」に留まっている。しかしながら、スウェーデン・フランス両国では、子育てを国全体の問題としているため、手当やその他の権利に対する条件がほとんどない。また、妊娠・出産・育児に関するものがほとんど公費で賄われているため、子育てに関する金銭的な不安があまりない。特にスウェーデンは、大学まで全ての授業料が無料であるため、教育費の心配が無い。日本では、「理想の子ども数を産まない理由」で最も高かった回答が「子育てや教育にお金が掛かりすぎる」で、56.3%にも上っていた。子育てや教育にお金が掛からないことは、出生率が高い大きな要因であるといえる。また、自己決定という概念が浸透しているため、選択肢がとても多い。特にフランスは、手当が30種類以上あり、自分に合わせたものを選択することができるのである。

そして、意識の違いとしてとても顕著だったのが、当事者の立場や子どもの立場から作られている制度かどうかである。日本の制度は、数値の上から作り上げた制度である点が否めない。そのため、制度があっても使いにくい、機能しないという問題が発生するのである。

このように、「子育てを国全体の問題」として、子育てに対する不安を軽減していくことが、子どもを産み育てやすい社会の実現につながるのではないだろうか。日本が両国の制度から見習わなければいけないのは、まずは意識の点であると考える。子育ては、母親の責任であると共に、父親の責任でもあり、社会全体の責任でもある。このような意識が生まれれば、自ずとそれをサポートする制度が出てくるはずなのである。そのようにすれば、海外の事例を丸ごと持ってきたような制度ではなく、日本に合った制度ができ、「子どもを産み育てやすい社会」へと近づくのではないかと考える。

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第4章 意識の変化が楽しい子育てのカギ

第1節 女性自身の意識の改革

第1項 ガラスの天井を取り除く

「ガラス天井」という言葉は、アメリカで広く使われている言葉であり、女性の昇進が「ガラスの天井」に阻まれてトップの座に手が届かないという状況を意味している。日本では、管理職に占める女性の割合が係長相当を含めても8%しかおらず、国際的に見ても低水準であることが言える。これは、日本では依然として「女性は結婚・出産をすると辞めてしまう」という概念が残っており、女性に責任のある仕事を任せず、補助業務をさせられるという実態がある。未だに「一般職」というコース別採用が広く行なわれていることからも、この概念が根強く残っていることが読み取れる。

このように、昇進・昇格のルールも明確に示されておらず、研修などのチャンスも男性と比較して、著しく少なく、女性のチャレンジの道が開かれていない環境が、女性の昇進の「ガラスの天井」を作っているといえる。

しかしながら、この環境だけが問題という訳ではない。女性自身も、「結婚・出産で仕事をやめるので仕方が無い」と思って、自分のキャリア形成の限界を作ってしまう傾向がある。そういったことが、実際の退職にもつながり、実質的に「女性は結婚・出産を機に仕事を辞める」と捉えられてしまうという悪循環が生まれてしまうのである。もちろん、企業側が環境を整えていくことが最も重要なことであるが、女性自身も自分で自分に「ガラスの天井」を作らないようにしなければならない。まず「家事・育児は女がするもの」という自分自身の固定観念を取っ払い、パートナーと話し合いの機会をつくったり、ロールモデルの存在がいるならば、その人を手本として、自分なりのキャリア設計をしていくことが重要なことである。

第2項 妊娠中・出産前の子育ての知識

現代の日本では、核家族化が進み、結婚・出産前に子どもと接する機会がほとんどなくなっており、妊娠・出産・育児の知識がないまま、母親になるケースが多い。調査では64.4%の母親が、自分の子どもを生むまでに乳幼児の世話をしたことがないと答えた。そのような現状にも拘らず、周りから「完璧な母親」になることを求められることがとても多い。このことが女性によりプレッシャーを与え、大きな孤独を感じたり、虐待をする要因となっている。そのため、妊娠中や出産前に出産や子育てに関する知識を身につけるサポートも、とても重要になってくる。実際、「妊娠や出産に関して重要と思われること」として、「夫やパートタイム労働者ナーの協力」以外に、「お産のことに関する相談相手・相談先があること」や「医師や助産婦からの説明が十分にあること」などの「出産・子育ての知識」に関する要求が上位に挙げられていた。

その要望に応え、最近では病院で出産前後の相談を受け入れているところもある。赤ちゃんがおなかにいる時からかかりつけ医をつくり、事前に育児不安を取り除こうという取り組みである。通常、産科医から小児科医を紹介され、産前から生後2ヶ月の間に、担当医や看護師らと顔合わせをする。出産するまでは、出産・育児についての相談を、出産後は日ごろの悩みを相談しに来る。現在は育児情報があふれており、混乱してしまう親が多いが、不安が募る前に気軽に医師に尋ねることができるため、育児不安の予防ができているといえる。

また、日本の女性は「完璧な親」にならなければいけないと思い、育児の負担が増加していくという現状がる。そのために現在、「完璧な親なんていない」という概念から、乳幼児の親同士がお互いの経験や悩みを共有し、学びあうことで、自信を持って育児ができるようにと目指す、カナダの「Nobody’s Perfect」という子育て中の親プログラムが注目を浴びている。カナダでこのプログラムができた背景としては、国土が広い上、移民が多いことなどで、親が孤立したり、子育ての情報が不十分であったことである。日本でも同じように母親の孤立が情報の不十分さが問題となっているため、プログラムを応用する動きが広まってきたのである。

Nobody’s Perfect プログラムは、0歳から5歳までの子どもをもつ親を対象にしており、10人前後のグループで、1回2時間、週1回で6〜10回連続で行うことを基本として行なう。育児のストレスやしつけなどをテーマに、それぞれの経験や不安、悩みを語り合う。このことを通して、親は自分の長所を見出したり、自分に合った解決策を見出す。また不安を話すことで、ストレスの軽減になったり、自分の経験が他の人の役に立つことで、自己評価を高めることにも繋がる。この話し合いには、研修を受けたファシリテーターが参加し、プログラムを準備・企画・実施し、参加メンバーの話し合いと交流を円滑にすすめていく役割を担っている。

出産や育児の実態を知らないことから不安になり、「完璧な親」を目指そうとする親がとても多い中、これらの支援を受けることで、多様な人がいることや、多様な育児方法があることを知り、自分を追い込まなくさせる心理的な支援が求められているのである。

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第2節 男性の子育て支援
第1項 男性の意識の変化

前述したが、日本の父親が平日に子どもと過ごす時間は3.1時間であり、国際的に見ても著しく低い数値となっている。また、この時間の短さに悩んでいる父親は41.8%で、10年余りの間に13.7%増加した。他国と比べると、1週間の労働時間が最長で、子どもの食事をする父親の比率が極端に低いことも分かった。

また、男性の育児休業の取得の意向を調査したところ、「ぜひ機会があれば育児休業を取得する」が7.4%、「取得する希望はあるが、現実的には厳しい」が36・0%であり、半数弱の男性が取得を希望している。

このように、特に若い世代では、「積極的に子育てをしたい」と考えている男性が確実に増加している。それにも拘らず、職場の理解や協力が得られず、思うように子どもと向き合えないため、ジレンマを抱えている男性が多いのである。こういった父親たちの現状も理解して、強制的に子育てを押し付けるのではなく、また「女性的な子育て」を押し付けるのではなく、父親らしい父親の子育て支援を行っていく必要がある。つまり、育児の担い手として母親を前提として組み立てられてきた子育て支援の世界を見直すことが、今後必要不可欠なこととなるということである。

第2項 男性に対する子育て講座

男性の中には、「父親としての出番は、母親の手から子どもが少し離れる3歳児以降だ」と思っている人も少なくない。そのため、時間がたてばたつほど、子どもとの接し方が分からなくなり、子どもと距離ができてしまうという父親の例も、少なくない。そのようなことを無くすため、より早くから日常的に子どもとコミュニケーションを取る方法を、父親向けの本や講座にて教えることが増えてきた。

最近では、子育てのマニュアル本とは違い、具体的な子どもとの接し方や、考え方をまとめたガイドブックなどが出てきている。その中の一つである『ダッドガレージスタイルブック/ビジネスマンのための子育てガイド』(英治出版)は、従来の子育て本とは違い、一見ビジネス書のような本である。著名な経営者の子育て論が掲載され、ビジネスマンにもとても受け入れやすい内容となっている。「かっこいいお父さん」をテーマに、父親ならではの遊び方のヒントを学べる、とても手軽な本である。このような男性用子育てガイドブックは、カナダが発祥である。 特に日本では、マニュアル本に振り回されがちになってしまうが、「これが良い」というマニュアルを提示するものではなく、接し方のヒントを与えることで、自分なりのコミュニケーションをとるきっかけになるのではないか。

男性向けの講座も、各地の取り組みが広がっている。講座でのコンセプトは、「母親のやっていることをマネするのではなく、父親なりの育児をすること」である。たとえばある地区で行なっている講座では、小学校就学前の子どもと一緒に参加し、体を触れ合う遊びを行なっている。ひざの上に子どもを乗せて歌ったり、大きな輪になって「とおりゃんせ」をしたりなど、父親の強みを生かしたダイナミックな遊びも行なう。また、子どもに「お父さんってすごい!」と思わせるようなお父さんの姿を見せることも、この講座のポイントである。たとえば、父親に前に出させて音の出る棒などで演奏を行なったり、父親の特技のものを見せてもらったりなどをする。このような一面を見せることで、日常的になかなかコミュニケーションが取れない父子の関係を深めていくことが目的である。また父親は、育児の楽しさを実感するだけではなく、具体的なコミュニケーション方法を教わることで、育児参画を継続することに繋がるのである。

しかしながらこのような講座に来る父親は、元々育児に対して積極な人が多く、「子どもとのコミュニケーションが少ない父親」にいかにして参加してもらうかという、課題がある。一度参加すれば、継続して続けて来るという傾向があるため、最初の参加の垣根を低くしていくことが重要である。そのためには、やはり父親が「参加したい」というような講座内容にしなければ、多くの父親を参加させることはできない。女性を中心として運営される子育て支援の現場だが、男性の意見も聴きながら、講座を構成していくことが重要である。

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第3節 幼少期から家庭を身近に

結婚、出産前から「子どものいる家庭」を知ることの大切さについては、第3章第3節第3項 で述べ、第4章第1節では妊娠中や出産前に出産や子育てに関する知識をつける重要性も述べてきた。

前述したのは大学生の例であったり、出産期の女性への支援だったが、より早くこのような環境に置かれれば、子育てに関する様々な意識が変化し、より生みやすく、育てやすい社会になるのではないだろうか。

ここでは、幼少期から「子どものいる家庭」を身近に感じる環境を作り、「親になる準備」の教育を行っているカナダのトロントの例を見ていきたいと思う。

第1項 幼少期からの「家庭」の教育

トロントでは、4歳から14歳の子どもを対象とした親教育プログラム「共感の根」というものを行なっている。ある学級が、近隣に住む2ヶ月から4ヶ月の赤ちゃんとその親を、クラスの一員として迎える。10ヶ月以上に渡って、親子は月に一度教室を訪問し、生徒たちは赤ちゃんの発達と親子関係をよく観察する。親子の相互作用を通して、生徒たちは親であることの責任を学び、他者の感情によりよく気がつくようになる。赤ちゃんの生き生きとした感情や、生徒たち自身の感情が、人間関係において共感性が果たす役割に関する話し合いの教材として用いられるのである。

子どもたちはこのプログラムを通して、「感情のリテラシー(自分の感情を適切に表現したり、他人の感情を適切に読み取る能力)」を形成し、快い自己表現をするようになる。また他人に対する共感性も育んでいくので、クラスから暴力やいじめが著しく減少するのである。親もまた、生徒たちと共に赤ちゃんについて学習し、そのことで赤ちゃんに対する親の反応が豊かになってくる。その上、教室の中で自分と赤ちゃんが注目を浴びることで、親の自信にもなり、自己評価を高めることができるのである。一方で生徒たちは、親であるためにいかに多くの時間と努力が費やされるかということを理解するようになるのだ。

このプログラムは、子どもの共感性を高め、親と子どもたちの人間の発達に対する理解を促進するという長期的な目標がある。また幼い子どもに対して、忍耐強い姿勢と思いやりを生むことも目標とされている。調査研究の結果、このプログラムに参加した子どもたちは、平均の2倍以上の高い共感性のレベルを示し、赤ちゃんの要求や安全についての広い理解を身に付けていた。

今の日本の若い世代の人々は、このように「家庭」を身近に感じる機会がなく、「結婚」や「家庭」についてイメージができない人が多い。そのため、自分が結婚することや家庭を持つことに対して、関心がない人も多いのである。特に男性は、結婚・出産で自分の人生が変化するとはあまり考えていないため、結婚・出産に対する将来のプランを立てていない人が多いということが、ベビーシッターインターンにインタビューをすることで分かった。つまり幼い頃から「家庭」を身近に知ることで、共感性が培われて相手の気持ちが考えられるだけではなく、自分自身の将来についても考えるきっかけになっていくということである。

現在の核家族化が進んだ日本では、普通に生活していたら家庭を身近に感じることはなかなかできない。このカナダの例のように、10ヶ月以上の間、親子を学校に通わせるという教育は、すぐに実行することは難しいと考える。しかし学校や地域のコミュニティセンターなどで、子どもたちが継続的に親子と出会える場を提供していき、幼い頃から「家庭」がどういうものかということを、実体験に基づいて学ぶことが重要であると考える。

第2項 中高生のベビーシッター

トロントでは13歳になると、ベビーシッターのアルバイトを行なうことができる。いくつかの機関が数日の講習会を開催しており、それに申し込むか、友達が数人集まれば、講師が近くで講習会を開いてくれる。また近くのコミュニティセンターで参加者を募っていることや、学校が案内を出すこともある。ひとつの例として、ある講習会は11歳〜14歳対象で、費用が約3000円であった。講習テキストはとても実用的であり、あらゆる状況、トラブルを想定して書かれている。たとえば、自分の預かる子どもの見つけ方、不慮の事故への対応、親が帰ってこない場合の対応などである。講習の最後には、簡単なテストがあり、合格すれば修了証がもらえる。

修了証をもらうと、それを持って、知人にアルバイトの口が無いかを聞いて回る。最初は自分の親の監督の下、大きめの子どもの面倒を見ることから始める。子守が成功すれば、相手の親から感謝され、大人として信頼され、小額のお金を稼ぐことができる。

日本でも、中学や高校などで「子育て」を体験する試みや、妊娠体験、乳幼児との交流が各地で行なわれている。静岡県沼津市では、中学生がボランティア活動でベビーシッターを行なっている。しかしながら調査では、中高生の中で「小さな子どもと触れ合う機会のない生徒」は66.1%もいた。授業の一環として育児体験をする学校は増えたが、一過性のイベントに留まっている様子が覗える。

私が行なっていたベビーシッターのアルバイトでは、資格が必要なく、講習を受けるだけでアルバイトを行なうことができた。しかしこのことは稀で、ほとんどのベビーシッターが、資格を有していることが求められる。日本では特に「安全性」を気にして、学生などは受け入れられないことが多いのである。しかしながら実際は、「子どもが若い学生さんが好きだから、とても来てくれると嬉しいわ。」と子どもの親からは好評であることが多い。

子育ては適性ではなく、ふれあう機会の多さであると考える。ふれあう機会が多ければ多いほど、子育てに自信を持つことができ、子どもを産みたいという思いが強くなってくるのである。現在、子育てに自信が無いことで、子ども生むことを躊躇したり、虐待をしてしまう親が多い。このことを改善していくためには、まず子どもと触れ合う機会をつくり、意識を変えていく必要があるのである。しかしながら、ただ機会を作るだけではなく、公的な機関や周りの大人が支えながら、幼い時期から「家庭」を身近に感じる学習を一緒に行なっていくことが、とても重要になってくるのである。

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おわりに

少子化対策から12年目。少子化が下げ止らない原因は、表面的にしか出てこない「未婚率の低下」や「晩婚・晩産化」などの原因にしか目をむけず、その裏に潜む根強い固定観念に対しての対策を講じてこなかったことではないだろうか。今回、「意識の改革」をキーワードに、多方面から論じてきて、改めてこのことに気づかされた。社会は変わってきているのに、人々の意識は以前のままであるため、様々な問題が生じてくるのである。

今ある問題を解消させ、男女の仕事と家庭の両立を達成させるためには、子育て支援だけではなく、労働における支援など、多様な方面から支援をしていかなければならなく、とても根が深い問題であることを痛感した。また、今回地域のサポートに関しては、ほとんど論じていなかったが、子育て支援についての地域のサポートは必須であり、とても重要なことであると考える。しかしながら、今回は「意識改革」とそれに伴う制度や環境の整備についてを中心に論じたため、地域のサポートについては、敢えてあまり論じなかった。

この論文のテーマは、「働く女性の子育て支援」であるが、今回の最も大きなテーマであるのは、「どのような環境にいても『産み育て易い社会』の実現」である。つまり、何度も文中でも出てきたように、多様な選択肢がある社会が理想であるのだ。女性が皆、フルタイムで働けば良いわけではない。パートタイム労働者になっても、専業主婦でも良いのである。しかしそれは、全ての選択肢が平等で、自分とパートナーが話し合って決めたものである必要があると考えるのである。

今後は、少子化の根本的な原因である、子育てにまつわる固定観念を撤廃し、徐々に選択肢を増やしていき、充実させていくことが求められているのである。

このことを行なっていくのは、国であり、企業であり、地域であるのはもちろんだが、まずは当事者の人々である。この論文で提示してきた様々な調査を見ても明らかなように、当事者自身が固定観念を強く持っており、現状に対して諦めてしまっている人が多い。自分に限界を作ってしまうのではなく、当事者が現状を良くしていくために訴えていかなければならない。そのためにも、当事者の人に情報を与えていき、意識を変えていくことが、急務であると考える。

性別役割分業などにより、家族の機能が失われつつある今、深刻な少子化の問題は、そのことを改善させるために私たちに警笛を鳴らしているように思えて仕方が無い。まずはパートナー同士が話し合って、共に納得して選択した子育てを行ない、家族の機能を再生していく。このことが社会を変えていき、少子化を改善する近道となると考える。

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Bibliography

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